研究概要 |
ラット(雄)を頚椎脱臼又は失血により屠殺し,一定時間室温に放置した後,腎臓・肝臓・膵臓・心臓・骨格筋の各組織を摘出した。摘出した組織はパラフィン又はエポキシ樹脂包埋を行い,死後24時間までの組織学的変化を光学顕微鏡で観察した。また透過型電子顕微鏡を用いて超微形態学的変化についても検討を行った。 1.頚椎脱臼群においてパラフィン包埋法とエポキシ樹脂包埋法を比較検討したところ,エポキシ樹脂包埋法は固定完了までの死後変化が最少限に抑えられることから,死後の組織学的変化を光学顕微鏡的に検討する目的に適していた。更に,死後24時間までの核クロマチンの凝集や細胞質内の空胞の出現等の経時的な差異が見られた。2.頚椎脱臼群および失血群における超微形態学的変化を比較したところ,死後変化は頚椎脱臼群に比べて失血群で遅延する傾向があった。すなわち,頚椎脱臼群では膵臓のアシナル細胞におけるミトコンドリア内の高電子密度無構造沈澱物は1時間後にすでに出現し,10時間後にはミトコンドリアの無構造化が著しかったのに対し,失血群では高電子密度無構造沈澱物は3時間後には殆ど見られず,10時間後にも一部のミトコンドリア内に見られるのみであった。また心筋細胞では頚椎脱臼群で3時間後に筋弛緩像を示し,10時間後に収縮像を示し,15時間後には弛緩像を示していたが,失血群では10時間後には収縮像と弛緩像が混在していた。これらの差異は,死後の体温降下が失血群で急速であったことが大きく影響したと考えられた。3.頚椎脱臼群における超微形態学的検討から,核クロマチンの凝集・ミトコンドリア内の高電子密度の無構造沈澱物の出現等,各組織における微細構造の変化を死後経過時間推定の指標の一つとして用いることが可能と考えられた。
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