研究概要 |
ムチン糖蛋白は巨大分子で取扱が困難であるが、近年遺伝子手法を使った研究によりムチンの全体像がかなり明らかになりつつある。加えて、生体内でのムチンはそれぞれに特異性を有することが認められている。既に、ヒト唾液ムチンに特異性を示すモノクロナル抗体(P4-5C)が木村章彦等によって開発されているが、P4-5Cに対するエピトープは明確ではない。ABO血液型活性を担うヒト唾液ムチンにP4-5Cが特異的あることから、今回、血液型を担うコア蛋白部分の解明と、P4-5Cのエピトープの解明を試み、以下のような成果を得た。P4-5Cの免疫原調製法に従って、煮沸唾液上清のエタノール沈殿物を出発物質とした。これは、シアリダーゼ消化、還元、カルボキシルメチル化によってもP4-5Cとの反応性に変化を認めなかった。唾液の主要成分であるアミラーゼ分泌型IgAの完全除去のため、2M尿素中でトリプシン消化し、消化物をSuperose6カラム(FPLC装置、6M塩酸グァニジン溶液を使用)で分画した。素通り分画(T-1)は、P4-5Cに陽性、クマシ-青蛋白染色に陰性、アルシアン青糖染色に陽性であり、ムチン糖蛋白と考えられた。T-1を過ヨード酸々化した後、β-脱離反応による脱糖処理を行っても、P4-5Cに対する反応性に変化を認めなかった。更にTFMSを用い0°C、4時間で可及的に脱糖した場合(DG)、P4-5Cとの反応性は消失した。DGはSDS・PAGE(10%ゲル)で、クマシ-青染色性の分子量13万・7万と推定されるバンドとして検出された。P4-5Cのエピトープは糖鎖が大いに関与しており、ペプチド部分は抗原性に直接関与していないことを確認した。DGは血液型を担うヒト唾液ムチンコア蛋白部分と考えられるので、これをSuperose12カラムで精製し、更にペプシン消化を行い、N末端アミノ酸配列分析に供し得るフラグメントの分離・精製を試みた。ペプシン消化フラグメントのアミノ酸組成は、DGと同じ様にThr,Ser,Pro,Alaが全体の60%以上を占めるというムチンの特徴を示した。HPLCによって単一のピークとして捕えたフラグメントから、明確な単一のアミノ酸配列を決定することは出来なかった。今回得た成績を報告されている2種のヒト唾液ムチン糖蛋白、MG1,MG2に照合して考えると、まだアミノ酸配列は報告されていない高分子で、血液型活性を示すMGIのコア蛋白部分の一部をDGとして捕えていることが予想された。糖結合部位が連なる分子中央部に相当すると予想されるDGは、ムチン自身が変異を持っている可能性に加えてThr,Serに糖鎖の結合の有無、又はThr,Ser結合糖鎖の脱糖の変異に基づく変異があることが考えられる。DGから単一のN末端を有するフラグメントの分離は非常な難事と考えられた。この分野での研究には、遺伝子手法の応用が必要不可欠であろうと思われる。
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