研究概要 |
強皮症とその関連疾患135例において,心エコー法ないし右心カテーテル法によって肺高血圧症(PH)を診断し,胸部レ線所見と呼吸機能検査値によってPHの原因を判定した。その結果,近位皮膚硬化症例に合併するPHは肺線維症が主因であるが,ときに肺血管病変が原因であり,全身性エリテマトーデスと多発筋炎の重複症例に合併するPHは肺血管病変である事が判明した。我々はさらに,これらPH症例の呼気中一酸化窒素(NO)を測定し,肺におけるNO産生動態を検討した。呼気中NOの多くは鼻咽頭粘膜由来であるが,マウスピースや鼻クリツプの使用による測定は、下気道からのNO産生を反映し,肺血管内皮機能の解析に有用と考えられる。PHを合併する強皮症関連疾患18例と正常対照15例を対象とした。18例中13例はPHの原因が肺血管病変であり,5例は肺線維症であった。安静座位,座位自転車による運動漸増負荷中にNO濃度と排出量を測定した。被験者の呼気中NO濃度を化学蛍光法によるNO濃度測定器で測定した。呼気ガス分析器により呼気量を連続的に記録し,NO濃度の平均値と分時換気量を乗じ,NO排出量を求めた。その結果,正常対照群ではNO排出量が運動負荷で安静時と比べて有意に増加したが,肺血管病変群では有意な増加がみられなかった(P<0.001)。肺線維症群においては安静時,運動負荷時共に,NO排出量は対照群,肺血管病変群と比べて有意に低く(P<0.01),肺血管床の減少が原因と考えられた。PHを合併する症例で運動負荷時にNO排出量の有意な増加がないのは,運動負荷による末梢血管床の増加が不充分なことが原因と考えられた。これらの症例ではNO吸入により肺血管抵抗を減じ,PHに対する補充療法となり得る可能性がある。実際の投与方法やNO濃度が,今後の研究課題である。
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