研究概要 |
リウマチ患者におけるT細胞白血病ウイスルI型(HTLV-I)の病因論的関与について研究した。疫学的検討では先に、一次性シェ-グレン症候群(SS)52例中12例(23.1%)に抗HTLV-I抗体陽性で、献血者(3.4%)と比較して有意に高いことを報告した。今回、さらに症例を増やし、169例中42例(24.9%)が陽性であり、前回とほぼ同じで高率であった。臨床的検討ではHTLV-I感染SSと非感染SS患者群で血清γ-グロブリン量、抗核抗体、抗SS-A/Ro抗体と抗SS-B/La抗体の陽性率において差を認めなかった。しかし、抗セントロメア抗体陽性SS患者(21例,12.7%)では抗HTLV-I抗体は1例も検出されず、HTLV-I感染は抗セントロメア抗体陽性SSの病因ではないことが示唆された。 HTLV-I関連脊髄症(HAM)はHTLV-I感染が原因と考えられる。そこで、当科に入院してきたHAM患者すべてを小唾液腺生検を行い、全例(14例)にリンパ球の浸潤を検出した。European Communityの診断基準に照らし合わせて見ると確実例8例、疑い例4例、陰性例2例であり、 HAM患者はSSを高率に合併することが明らかになった。確実例8例のHAM患者群では血清中リウマトイド因子、抗核抗体、抗SS-A/Ro抗体、抗SS-B/La抗体も非感染SS患者群と同程度に検出された。次に、小唾液腺浸潤リンパ球のphenotypeを検討した。HTLV-I感染SSの小唾液腺組織は主としてCD4^+T細胞が浸潤し、一部CD8^+T細胞やCD20^+B細胞の浸潤が見られ、非感染SSの浸潤リンパ球のphenotypeと差を認めなかった。小唾液腺組織のFas抗原やFasリガンドの発現とアポトーシスを検出した。HTLV-I感染SSの小唾液腺組織にはFas抗原が腺細胞、導管細胞と浸潤リンパ球に、 Fasリガンドは浸潤リンパ球に発現し、アポトーシス像は腺細胞と導管細胞に検出された。しかし、非感染SSと差異を認めなかった。 HTLV-I感染SSの小唾液腺組織ではPCR法でHTLV-IgenomeLTR,gag,pol,pXの4領域とも検出された。pX領域で半定量的にウイルス量を測定し、HAMを合併していない抗HTLV-I抗体陽性SS4例中3例で末梢血単核球より小唾液腺組織の方がウイルス量が多かった。血清中抗HTLV-I抗体陰性SSの17例中3例に、HTLV-Iprovirus DNA taxが検出された。しかし、これらの患者のウイルス量は少なく、SSの病因となっていないと判断した。 HAM患者の小唾液腺組織へリンパ球浸潤が見られたことから、HAM患者末梢血T細胞の性質について検討した。基底膜再構成基質の通過性についてはHAM患者の末梢血T細胞は亢進しており、特にCD4^+細胞は著名であった。HAM患者末梢血T細胞のアミノペプチダーゼN活性は対照者に比較して有意に高く、これが基質通過性亢進の一原因と考えられた。興味深いことに、基底膜再構成基質を通過したCD4^+T細胞は非通過細胞に比較してHTLV-I provirusのコピー数は2-8倍多く、HTLV-I感染CD4^+細胞がより基底膜を通過しやすいことが示唆された。さらに、HAM患者の末梢血T細胞の中で臍帯由来血管内細胞に接着する細胞群は無刺激でもTNF-α,IFN-γ,GM-CSFを培養上清中に多量に産生し、またspontaneous proliferationも高値を示した。 以上より、SSの一原因としてHTLV-I感染が強く示唆された。病態ではHTLV-I感染CD4^+細胞が末梢血より唾液腺組織へ浸潤し、この感染CD4^+細胞が炎症性サイトカインを産生し、炎症を増幅・進展すると同時に、 HTLV-Iや自己抗原に対する反応性T細胞や抗体産生を誘導し、アポトーシスや細胞傷害性T細胞により腺管が破壊されることが示唆された。
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