研究概要 |
ヒト肝癌でみられる約4:1男女差について、同じく雄優位の肝腫瘍発生をきたすTGFα transgenic mouse(MT42)を用いて以下の検討を行った。まず雄マウスの血中テストステロン濃度はコントロール(CD1):1.38ng/dlに対してMT42:29.7 ng/dl と有意にMT42で高値を示した.MT42の精巣を摘出しさらに精巣摘出後アンドロゲン5α-dihydrotestosteron(DHT)の90日間徐放性ペレットを皮下に90日間隔で補い(C+D群)、無処置群(sham operation)(S)、精巣摘出群(C)と最終15カ月後において肝腫瘍の発生を比較観察した。血中testosteron はC→C+D→Sの順に高値となり、体重、肝重量についてはCで低く、S,C+Dでは差はなく特にC+Dで肝重量が高値であった.S群6匹からは総計7個、C群6匹からは2個、C+D群6匹からは9個の肝腫瘍が発生した。C群に発症した肝腫瘍は他の2群に発症したものより有意に腫瘍の径が小さかった。さらにPCNA染色によるlabelingindexを非腫瘍部、腫瘍部に分けて検討したところ、S:0.46%,8.5%,C:0.25%,1.7%,C+D:0.61%,5.3%,とそれぞれC群が有意に非腫瘍部,腫瘍部ともに低下していた.男性ホルモンの抑制作用を持つLH-RH agonist(酢酸リュープロレリン)を投与して腫瘍への影響をみたところ6匹中1匹にのみ肝腫瘍の発生をみた以上よりTGFαを介する細胞増殖肝発癌のメカニズムには男性ホルモンが促進的に作用しており、なんらかのpositive feedbackを介してTGFα自体も男性ホルモン分泌を促進させていた.MT42より樹立した非腫瘍肝細胞AML12においてestrogenとandrogenを加えて培養し培養液中のTGFαをELISAで測定したところestrogenにおいては変化無く、androgenにおいて上昇した.また男女間の発現差が知られている薬物,ホルモン代謝酵素であるp450-2AについてMT42をもちいてその発現差をみたところ、本来雌で発現の高い2Aサブファミ-2A4,2A5がMT42の雄で高発現しており特に肝腫瘍で高発現していたこのことよりTGFαがp450の一部の発現を高めており、これが男性ホルモンを介した作用であり、腫瘍発生に深く関わっている事が示された.
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