研究課題/領域番号 |
07670585
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 補助金 |
応募区分 | 一般 |
研究分野 |
消化器内科学
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐々木 裕 大阪大学, 医学部, 助手 (70235282)
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研究分担者 |
萩原 秀紀 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員
三田 英治 大阪大学, 医学部・附属病院, 医員
笠原 彰紀 大阪大学, 医学部, 助手 (70214286)
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研究期間 (年度) |
1995 – 1996
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研究課題ステータス |
完了 (1996年度)
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配分額 *注記 |
2,300千円 (直接経費: 2,300千円)
1996年度: 800千円 (直接経費: 800千円)
1995年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
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キーワード | 細胞内情報伝達 / 肝癌 / 遺伝子治療 |
研究概要 |
本研究では細胞内情報伝達機構の制御によるヒト肝癌進展抑制の可能性を検討するために、まずヒト肝癌組織において細胞内情報伝達経路であるMitogen-activated protein kinase (MAPK)カスケードの活性化について解析した。MAPK活性が非癌部に比して癌部では高値を呈した。カスケードの上流に存在するRaf-1 kinaseは癌部、非癌部でその活性には明らかな相違は認められなかったが、MEK kinase (=MAPK kinase kinase)は癌部で活性で上昇していた。即ち、肝癌組織では肝組織増殖過程(Rafl kinase→MAPK)とは異なる経路(MEK kinase→MAPK)で、恒常的にMAPKが活性化されている事が明らかになった。このように活性化されたMAPKの役割の一つとして転写因子の誘導が考えられる。そこで癌組織において転写因子の遺伝子発現を検討すると、MAPKの基質であるElk-1, c-jun蛋白質の燐酸化が増強しており、その結果c-fos蛋白質、c-jun蛋白質の発現が亢進していた。さらにこれら転写因子はサイクリンD1などの細胞周期関連遺伝子群を誘導する。c-fos蛋白質の発現が亢進している肝癌組織において、サイクリンD1の発現は増強していた。さらに癌部でMAPK活性の高い症例ではサイクリンD1蛋白質の発現が亢進していた。これまでにサイクリンD1と発癌との関連が報告されており、我々の結果は肝細胞癌におけるMAPKの活性化が転写因子の発現誘導を介してサイクリンD1遺伝子発現を増強し、肝癌の増殖進展に結びつく事を示唆するものである。次に肝細胞癌におけるMAPKの活性化に、カスケードのいかなる細胞内情報伝達物質が関与するかを検討した。細胞内情報伝達物質でありインスリンおよびインスリン構成長因子の受容体のチロシンキナーゼ活性の細胞内基質であるIRS-1 (insulin receptor substrate-1)蛋白質に焦点を当てると、ヒト肝癌組織において高頻度に発現した燐酸化(活性化)を受けている事が観察された。そこでIRS-1の発癌過程における役割を検討するために、ヒトIRS-1発現ベクターをNIH3T3細胞に感染させ、恒常的にIRS-1を発現、活性化するstable transfectantを作製した。このstable transfectantは形質転換しており腫瘍形成能を有していた。またstable transfectantにおいてはMAPKカスケードの活性化が認められ、活性化の程度の強いtransfectantほど腫瘍形成能が強い傾向にあった。またIRS-1アンチセンスベクターをヒト肝癌細胞株に導入すると細胞増殖速度が抑制された。これらの結果はIRS-1がヒト肝癌組織において、細胞内情報伝達機構の活性化を通じて肝癌進展過程に重要の一翼をになっている事を示唆するものである。今後、IRS-1をはじめとした細胞内情報伝達物質の特異的阻害剤等の開発を通して、ヒト肝癌進展抑制のためのSignal transduction therapyへと研究を進展していく予定である。
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