研究概要 |
われわれは昨年度までに、ヒトplatelet-derived growth factor(PDGF)-Bが胞隔の線維芽細胞の増殖、コラーゲンの沈着を誘導することを確認した。今年度は間質性肺炎モデル動物の肺局所でPDGF活性を抑制した時の肺病理組織像の変化を観察することにより、この因子が肺線維化に果たす役割を確認し、かつこの方策の抗線維化療法としての可能性を検討した。可溶性PDGF受容体β鎖細胞外ドメイン(XR)はPDGFとは結合するが、PDGF受容体の細胞内のチロシンキナーゼ部位を欠如するため信号伝達を行わない。この分子はデコイとして作用し、PDGFのPDGF受容体への結合を阻止し、その活性が抑制される(J Biol Chem,266,413,1991)。このcDNAを用い、チキンβアクチンプロモータ支配XR遺伝子発現プラスミドを作成した。経気道的なC57BL/6マウスの気道肺胞上皮細胞への生体内遺伝子導入には、センダイウイルスのスパイクをリポソーム表面に表出させることによって遺伝子導入効率を高めたHVJ-リポソーム法を用いた。間質性肺炎モデル動物として使用したブレオマイシン肺炎マウスの肺組織にはPDGF-BBタンパクの強発現を免疫組織染色で確認した。XR遺伝子投与群では対照の緩衝液投与群にくらべ有意に肺湿重量の低下と膠原線維量を反映するハイドロキシプロリン量の低下を認め、さらに組織学的検討ではXR群の胞隔の肥厚や細胞浸潤は軽度であった。以上の結果からPDGFがブレオマイシン肺炎で肺線維化の過程に関与することが確認され、われわれの方策によるPDGF活性の抑制が新しい抗線維化療法となりうることが示唆された。
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