研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の特徴の一つは脳内にβ蛋白(Aβ)が広範に沈着することであるが,このAβにはC末端のことなる2種類の分子種Aβ40とAβ42/43が存在し,AD脳の最初期変化である瀰漫性老人斑は主にAβ42/43から成っていることが知られている.本研究では,血漿や髄液中のAβ分子種をELISAにより分別定量し,AD患者群において対照群と比べて有意な変化がみられるか否かを検討することにより,ADの臨床診断を確立することを目的とした.ELISAにはサンドイッチ法を用い,Aβ1-40とAβ1-42/43を、あるいはAβX-40とAβX-42/43を分別定量した.血漿に関してはAβ1-40とAβ1-42/43のみを検討したが,両者ともにAD,対照群との間で有意差はみられなかった.血漿の各リポ蛋白分画においても,これらの有意差は認められなかった.また,アポリポ蛋白EのアイソフォームとこれらのAβ分子種との相関は特に明らかではなかった.一方,髄液の測定では,Aβ1-40やAβX-40はAD群と対照群との間で有意な差は認められなかったが,Aβ1-42/43とAβX-42/43は両者ともADにおいて有意な減少がみられた.また,AβX-40/Aβ1-40はADと対照との間で有意差はなかったが,AβX-42/43/Aβ1-42/43はADでは対照の数倍の増加がみられた.これらの結果は,AD髄液中のAβ分子種,特にAβ42/43が,脳内のAβ42/43の変化より何らかの影響を受けていることを示唆するものと考えられた.本研究の結果,ADにおいて髄液中のAβ42/43が減少し,N末端の切断などの修飾も増加することが明らかになった訳であるが,Aβ42/43値のオーバーラップはAD,対照群間で大きく,これのみではADの臨床診断は困難であり,その他の検査を併用し,総合的に判断する必要があると考えられた.
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