研究概要 |
血液神経関門(BNB)を通しての免疫グロブリンなどの液性因子、および感作リンパ球の末梢神経実質内への侵入はギラン・バレー症候群、CIDPなどをはじめとする免疫学的末梢神経障害発症のkey stepであり、BNBを構成する内皮細胞(PnMEC)の生物学的特性の解析はこれらの疾患の病態解明に極めて重要であるが、技術的な困難からPnMECの培養はほとんど行われていなかった。本研究により、以下の成果が得られた。(1)ウシ末梢神経神経内膜由来内皮細胞(PnMEC)の大量純培養法が確立された。(2)PnMECは形態的に脳毛細血管由来内皮細胞(BMEC)に酷似し、in vitroでtight junctionを形成するほか、acetylated LDLを取り込み、von Willebrand抗原陽性など、一般的な内皮細胞としての特性も備えていた。(3)BBB,BNB共通のバリアーのマーカーであるglucose transporter type 1は、培養早期に消失した。(4)PnMEC膜の糖脂質分画を解析した結果、GM3が主要ガングリオシドで、その他、GM1,GD1a,GD1b,GT1bおよびSLPGを末梢神経実質との共通抗原として発現していることが明かとなった。これらの結果は、BNBの分子細胞学的研究という新たな分野に道を開くと共に、ギラン・バレー症候群、CIDPなどの免疫学的末梢神経障害において、糖鎖に対する自己抗体がまずBNBを構成する内皮細胞を攻撃し、破綻したBNBを通って抗神経抗体が末梢神経実質にアクセスするという仮説を支持するものである。現在、この細胞を用いたBNBのin vitroモデルを作製する実験が進行中で、各種サイトカインによる膜抵抗の低下に関するデータが集積している。
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