研究概要 |
培養心筋細胞では、α_1アドレナリン性受容体刺激(α_1-刺激)によって動物モデルと同様の細胞肥大とβ-ミオシン重鎖(β-MHC)など胎児型遺伝子の再発現がおこる。申請者は、α_1-刺激で活性化されたprotein kinase C(PKC)が転写因子TEF-1を介してβ-MHC遺伝子の転写を活性化することを見出し、心筋細胞からaltemative splicingにより生じる7種のTEF-1 isoform cDNAをクローン化していた。平成7年度に申請者は新たなsplice variantを発見し、心筋には8種のisoform (α〜θ)が存在する事と、他臓器では異なるsplicingがおこる事を示した(ε;心房、γ;子宮、δ;肺、ζ;腎、他は骨格筋と心筋。脳と肝臓には無し)。興味深いことに、α〜ζはβ-MHC promoterに特異的に結合し転写を活性化したが、DNA結合ドメインの一部を欠くηとθは転写を抑制した。ηとθは他のisoformとのヘテロ二量体形成によりDNA結合を阻害し転写を抑制している可能性があり、β-MHC遺伝子の転写はこれら正と負の作用を持つisoformのバランスにより調節されると考えられる。また、altemative translationによりN末端側を欠くTEF-1分子も存在することが判明したが(147番目のコドンAUGからの翻訳産物)、この分子もDNA結合ドメインを持たず、転写抑制作用を持つ可能性がある。一方、TEF-1には試験管内でPKCにより燐酸化されるisoformがあるが、今回cAMP-dependent protein kinaseにより燐酸化されるもの(α, β, ε, ζ)も判明した。申請者は、TEF-1が、α_1-刺激により細胞内で燐酸化されることも新しく証明したが、PKCにより燐酸化されるisoformとの異同は不明である。さらに最近、TEF-1の作用がpromoter依存性であることが判明し(β-MHC promoterを活性化するが、TEF-1を結合するviral promoterは抑制する)、TEF-1は心筋特異的遺伝子の転写を促進しつつ他を抑制することにより巧妙に遺伝子発現を調節している可能性が出てきた。
|