【背景及び目的】血管壁への伸展刺激が、平滑筋細胞の収縮や増殖を引き起こし、血管の緊張や血管壁の肥厚・リモデリングに関与する可能性が指摘されている。このような伸展刺激による細胞反応の開始のメカニズムを知るために、血管平滑筋に存在する進展感受性チャンネルの基本的性質を電気生理学的方法により検討した。【方法】モルモット腸間膜動脈の平滑筋を酵素処理により単離した。細胞膜の伸展に伴う電流や電圧の変化をパッチクランプ法にて記録した。パッチ電極に陽圧を加え細胞を腫大させ、細胞膜を伸展させた。【結果】陽圧による細胞の腫大に反応し、伸展感受性チャンネルによる電流が出現した。陽圧の解除により電流は消失した。この電流は、生理的電圧の範囲では膜電位や時間に影響を受けなかった。まず、生理的環境下では、ナトリウムとカルシウムが主にこのチャンネルを通過し、条件を変えると他の陽イオンも非選択的に通過した。この電流は、非選択的陽イオンチャンネルの阻害薬でうあるガドリニウムにより濃度依存性に抑制された。また、細胞膜の伸展により細胞が脱分極した。以上より、血管平滑筋の伸展感受性チャンネルは他の組織に存在する非選択的陽イオンチャンネルと基本性質が類似していると考えられた。【結論及び考察】伸展刺激を受けた細胞では、ナトリウムやカルシウムが伸展感受性チャンネルを通過して細胞内へ流入すると同時に細胞膜を脱分極することが判った。膜の脱分極は電位依存性カルシウムチャンネルを開口させ、カルシウム流入をさらに増加させると考えられた。このような伸展刺激チャンネルを介したナトリウムやカルシウムの細胞内への流入が、平滑筋細胞の収縮や増殖などの細胞反応の開始に関与しうると考えられた。今後、このチャンネルの開口を調節している因子について検討を加える予定である。
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