高血圧動物及びNO系の抑制下において、ストレス負荷時の昇圧反応に及ぼす中枢血圧制御の関与をNoergic neuronの作動状態の面より明らかにするため、ラットを用いshaker stress(SS)負荷時の心血管反応とリヤルタイムな脳内neurotransmitterの分泌動態について心血管中枢のひとつである視床下部室傍核(PVN)において検討した。 【実験動物】自然発症高血圧ラット(SHR)及び対照としてWKYラットを用いた。L-NAME負荷には雄性Wistarラットを用いた。 【方法】(1)NOの合成阻害剤であるN-nitro-L-arginine(0.7g/l)(1-NMMA群)を飲水に溶解し、対照として精製水(CONTROL群)を投与し、2週後に覚醒下に血圧、心拍数を記録しながらbrain microdialysis法を用いPVNに於けるのNOの分泌動態を測定した。NOは10分毎にグリース法を用いnitrite+nitrateの合計として測定した。その後、200cycle/minの刺激頻度でSSを10分間行い、心血管反応およびPVNのNO分泌動態の変化を検討した。(2)SHR及びWKYを用い同様にSS負荷を行った。(3)ラットのPVNをインスリン含有液で灌流し心血管反応を検討した。 【結果】1:SSはPVNの灌流液中のnorepinephrine濃度の上昇を伴う昇圧反応を呈し、この反応はPVNのα1 blockerの前処置で抑制された。2:L-NAMEの経口投与により、1週目より有意な昇圧を認めたが、代謝ケージによる水分、電解室出納には差を認めなかった。L-NAME群の覚醒下平均動脈圧はCONTROL群に対し有意に高値であり、SS時の昇圧反応もL-NAME群で有意に大であった。PVN灌流液中のbaselineのNO値はL-NAME群で有意に低く、SS時のNOの増加反応も有意に小さかった。3:SHRの覚醒下平均動脈圧はWKYに比し有意に高く、またSS時の昇圧反応もSHRで増加反応も有意に大であった。PVN灌流液中のbaselineのNO値はSHRで低値であり、SS負荷時の増加反応も低値であった。4:L-NAME群を除く全てのラットにおいて、PVNのbaselineのNO値と覚醒下の平均動脈圧の間に有意な負の相関を示した。またSS負荷時のPVN灌流液中のNOの増加と昇圧反応の間にも負の相関を認めた。5:インスリン灌流液によるPVNの灌流は心血管反応に有意な変化をもたらさなかった。 【結論】PVNにおけるNOの遊離がSS時の昇圧反応に抑制的に作用しており、SHRやL-NAMEラットにおける過大昇圧反応にこの系の作動不全がcatecholaminergic neuronを介して関与する可能性が示唆された。さらにPVNのbaselineのNO値が平均動脈圧と逆相関を示すことにより、同部におけるNOが血圧維持にも一部関与する可能性が考えられた。
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