研究概要 |
実験的研究 1)アルガトロバン局所投与後の血管中膜平滑筋細胞の増殖能抑制効果および血管内膜肥厚抑制効果 アルガトロバン溶液(1mg/ml)に浸したヒドロゲルバルーンカテーテルでウサギ総頚動脈を拡張(6気圧,60秒)することにより血管壁障害を加えると共に薬液を局所投与した(アルガトロバン群;n=8)。生理食塩水に浸したバルーンで拡張したものを対照(n=8)とし、動脈拡張3日後に屠殺し、PCNAを用いた免疫組織染色により血管中膜平滑筋細胞の増殖能を測定した。更に上記と同様の方法を用い、用量依存性の有無について検討した。4種の濃度のアルガトロバン溶液(1,0.1,0.01,0mg/ml)に浸したカテーテルで血管を拡張させ,動脈拡張20日後に組織標本(elastica van Gieson)を作成し内膜肥厚度を比較検討した。。(結果)総細胞に占めるPCNA陽性細胞の割合は、アルガトロバン群で平均16.9%,対照群で平均43.8%であり有意に(p<0.01)アルガトロバン群で小であった。アルガトロバン群(1,0.1mg/ml)の血管内膜面積/中膜面積比は生理対照群と比較し有意に(p<0.01)小であった。また新生血管内の主な細胞はHHF-35陽性、HAM-56陰性であり、血管平滑筋細胞由来と考えられた。 2)アルガトロバン局所投与後の血管壁内滞留度 標識(^<14>C)アルガトロバンを1mg/mlに調整し、上記と同様の方法で動脈拡張を行った。動脈拡張直後、2時間、6時間、24時間後のバルーン接触部位の血管を摘出し、血管壁アルガトロバン濃度を液体シンチレーションカウンターを用い測定した。動脈拡張直後、2、6、24時間後の血管壁アルガトロバン濃度(nmole/gram of wet tissue)は各々平均24.6,0.49,0.11,検出できず、であった。 以上の研究成果は第59回、60回日本循環器病学会、第43回日本心臓病学会、平成7年度日本動脈硬化冬季大会、第37回日本脈管学会、45th Annual Scientific Session of American College of Cardioiogy,17th Scientific Meeting of the international Society of Hypertensionにおいて発表した。 臨床的研究 病変長20mm未満,非閉性の新規責任冠血管病変に対し待機的にPTCAを施行,初期成功(50%未満の狭窄度)し、アルガトロバンを局所投与し慢性期に冠動脈造影を施行した18症例(18病変)を対象とした。全例とも当医大倫理委員会で承認を受けたプロトコールに従い患者に説明し同意を得た。アルガトロバン局所投与以外の条件をマッチさせた32症例(41病変)を対照とした。通常の方法で,冠動脈狭窄部位にPTCAを施行し,開大したのを確認した後、実験的研究と同様の方法でバルーンカテーテルにアルガトロバンを吸着させ、保護鞘と共にバルーン拡張部位の近くまで進め,続いてバルーンカテーテルのみを開大部位におき、6気圧,60秒間拡張させることによりアルガトロバンを冠動脈壁内に浸潤させた。PTCA前後ならびに追跡時冠動脈造影の狭窄度の評価は,最小血管径を算出して行った。再狭窄は追跡造影時の実測狭窄度が(1)50%以上のlate gain loss,あるいは(2)70%以上の狭窄の出現,と定義した。両群間の狭窄度の比較はx^2検定を用い,p<0.05を有意とした。慢性期再狭窄率の平均はアルガトロバン群で11.1%であり、対照群の41.4%と比較し有意に小(p<0.05)であった。以上の研究成果は第44回日本心臓病学会において発表した。
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