研究概要 |
研究目的:心臓の虚血・再潅流障害の成因としての細胞内Ca^<2+>overloadの機序について、無酸素・再酸素化または虚血・再潅流モデルを用いた細胞内イオン動態について検討した。1.無酸素によりforward mode Na^+/Ca^<2+> exchangerや筋小胞体によるCa除去能が抑制されるかどうか。その機序として細胞内アシドーシスが関与するか。2.再酸素化においてreverse mode Na^+/Ca^<2+> exchangerが活性化されCa^<2+>の細胞内流入が増加し、Ca^<2+> overloadが生ずるか。3.摘出潅流心を用いて虚血・再潅流の細胞内Ca,pH動態への影響を観察し、単離心筋細胞モデルとの対比を試み。方法:1.カラゲナーゼ等を用いて単離されたモルモット心室筋細胞の[Ca^<2+>]i,[pH]iの測定には蛍光指示薬Fura-2,BCECFを細胞に負荷後、2波長励起光による蛍光強度比をモニターした。2.電気的field stimulationにて拍動させた単離心筋細胞に対しグルコース無添加のTyrode液にlmM Na_2S_2O_4を加えて無酸素を3分間誘発し、再酸素化を行った。3.ラット摘出心をLangendorff法にて潅流し、蛍光指示薬Fura-2またはBCECFを経冠動脈的に心筋に負荷し、細胞内Ca^<2+>,pHを測定し、虚血(low-flowischemia)、再潅流の影響を観察した。結果・結論:1.単離心筋細胞にて無酸素によるCa^<2+> transientの振幅減少と、拡張期[Ca^<2+>]i上昇、細胞内pHの低下を観察した。さらに無酸素ではCaffeine急速投与によるCa transientの減衰時間が延長し、forward mode Na^+/Ca^<2+> exchangerによるCa^<2+>排出が抑制された(Seki:Am.J.Physiol.1995)。またRapid coolingにより発生させたFura-2シグナル(細胞内Ca^<2+>の上昇)のrewarmingによる減衰時間が延長し、筋小胞体Ca2+摂取能の低下も示唆された。2.再酸素化にて、Tetra methyl ammoniumの置換による細胞外Na急速除去によるFura-2シグナルの立ち上がりの振幅は増加傾向を示し、拡張期[Ca^<2+>]i上昇も持続した。 Reverse mode Na^+/Ca^<2+> exchanger活性の亢進が示唆された。3.摘出潅流心モデルについて、虚血によりCa2+ transientの振幅は減少し、拡張期[Ca^<2+>]iは上昇した。細胞内pHは低下した。細胞内Ca^<2+> overloadの機序として、無酸素ではforward mode Na^+/Ca^<2+> exchangerの抑制が重要であり細胞内アシドーシスの関与が示唆された。摘出心を用いた虚血・再潅流モデルにおけるイオン動態は、単離心筋細胞と一致するものであった。
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