研究概要 |
I)同定されたインスリン受容体コドン87のLeucineからProlineへの変異がインスリンの生物学的作用に影響を及ぼすかどうか検討するため我々は異常インスリン受容体(Pro87IR)cDNA発現ベクターを構築し、NIH3T3細胞へ遺伝子導入し、stable cloneを得、正常型インスリン受容体(Leu87IR)と比較した。(1)[_<35>S]methionineによるmetabolic labelingによりPro87IRは、proreceptorのdimer化に遅れを認めるが、cell surface biotinylationでは細胞表面にα,β-subunitとして認められるため、細胞内輸送には大きな影響を及ぼさないことが示された。(2)Scatchard plot解析によりPro87IRのインスリン結合親和性はLeu87IRの約15%に低下し、dissociation kineticsにおいてもインスリンのPro87IRからの解離は亢進し、Pro87IRにおけるインスリン結合親和性の低下が確認された。(3)Pro87IRβ-subunitのインスリン刺激による自己リン酸化は、Leu87IRに比べ低下しており、インスリンの生物学的作用の減弱を来していると考えられた。II)受容体におけるコドン87の機能を解析するために同部位のsite-directed mutagenesisを施行した。(1)変異型インスリン受容体(Ile87,Val87,Ala87IR)cDNA発現ベクターを構築し、NIH3T3細胞に遺伝子導入し、stable cloneを得た。(2)cell surface biotinylationにより各変異型受容体が細胞膜表面に到達することを確認した。(3)Scatchard plot解析により、Ile87,Val87IRでは結合親和性がLeu87IRの約4倍に、Ala87IRでは約15%に低下しており、dissociation kineticsにおいても、Ile87,Val87IRではインスリンの解離の遅延が、Ala87IRでは解離の亢進が認められた。(4)各変異受容体の自己リン酸化は結合親和性に比例し、Ile87,Val87IRでは濃度依存性に増加し、Ala87IRでは低下していた。以上から、コドン87はインスリン結合に直接結合しており、さらに同部位にはLeuのγ-branched side chainよりもIle,Valのβ-branched side chainの方が適していることが示された。
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