研究概要 |
発育期神経遺伝病の治療は現在の所できない.脳へ遺伝子を導入する遺伝子治療の基礎実験が行われているが,それぞれの神経疾患の神経細胞の障害のおこる時期,神経細胞障害のおこり方には特異性があり,漠然と遺伝性神経疾患全体を対象にした基礎的研究はありえない.本研究は,人の遺伝病と全く同じ遺伝子に欠陥がある自然発生した変異マウスでKrabbe病のモデルであるTwicherマウス,Niemann-Pik病C型のモデルであるSphingo-myelinosisマウスへの細胞移植による治療法を開発することによって,遺伝子治療の基礎的な研究を行うことを目標にしている.今年度は,正常マウス由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞を移植しそれらが生着するかどうか検討した.トランスフェリン,インスリン,プロゲステロン,セレン,bFGFを含む完全合成培地で生後0日の正常マウス中脳の細胞を培養し,90%以上がA2B5抗原陽性であることを確認し,ファーストブルーで標識した.このA2B5陽性O-2A細胞を生後5日のTwicherマウス大脳皮質下白質に2×10^4個移植し,2週間後移植した細胞が生着しているかどうかを確かめた.移植した細胞は大脳皮質下側脳室周辺に広く分布していた.さらに,オリゴデンドロサイトのマーカーである抗ガラクトセレブロシッド抗体で染色すると,Twicherマウス白質ではほとんどガラクトセレブロシッドが発現していないのに対し,移植部位の周囲はガラクトセレブロシッドが陽性になっていた.さらにKluber-Barrera染色によってミエリン形成を確認したところ,移植部位にミエリンの形成を認めた.これらのことから,TwicherマウスへのO-2Aの移植は大脳白質の髄鞘形成不全には有効であることが確認された.今後,移植の細胞の量,移植場所,移植する時期を検討し,臨床症状にも有効かどうか確かめていく.また,Sphigomyelinosisマウスへは,小脳からの前駆細胞移植を試みていく.
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