研究概要 |
モルモット有毛部実験白癬の病巣は初め炎症所見を示し,脱毛したが,21日目には改善し,以後,発毛して治癒した。組織学的に,感染菌要素は初め表皮角層に,続いて毛孔から毛皮質角化帯まで到達し,また,表皮および毛漏斗上皮は著明な角化亢進を示し,付近の真皮には小円形細胞浸潤を認めた。21日目までに大部分の毛器官は退行し,菌要素は毛とともに体外へ脱落した。BrdU染色によるS期細胞数の割合は,表皮では真菌感染後に著明に増加して治癒の段階まで亢進するが,毛器官では21日目前に一時的に亢進するものの,直後に低下した。経過を通じて,真皮の細胞浸潤は真皮上層に限られた。組織所見からは,この白癬モデルの自然治癒の機序に,従来説のような表皮ターンオーバー亢進現象のみでなく,成長期毛器官が一斉に退行することも重要であるとみられた。BrdU染色の所見から,真菌の表皮角層への感染により表皮細胞の増殖亢進が生じ,また,毛器官角化帯進入により毛母細胞の一時的増殖亢進と続く増殖停止が起こされることが理解された。表皮の変化には,表皮直下の細胞浸潤の影響も考えられたが,毛母や毛球周囲には細胞浸潤は乏しく,角化帯に進入している真菌の放出する何らかの因子が毛母の細胞動態に影響していると思われた。形態学的に各種白癬菌によるヒト毛器官の白癬(Arch Dermatol Res 283 : 233, 1991)と比較すると,毛皮質角化帯までの菌の進入や毛球周囲に細胞浸潤を認めないことなどは同様であった。白癬菌の増殖態度や組織障害性が同様と仮定すると,モルモット体毛とヒト毛髪における毛器官の構造上の相異,それは単なる毛球の大きさや深さの相異かもしれない,あるいは毛球部における細胞動態の相異,さらには毛周期の相異などにより,前者では菌進入により毛球の退縮が惹起されるが,後者ではなかなか起こらないものと推測された。
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