研究概要 |
ヒト正常表皮細胞のdesmosomal cadherinであるdesmoglein(Dsg)は、主としてDsg1とDsg3の二つのisoformで構成されている.ところが,有棘細胞癌から樹立された細胞株であるHSC1,5,6とKOM株では,Dsg2とDsg3が主要な分子であり,分化型のDsg1はほとんど欠落していた(Acta Derm.Venereol.,印刷中).すなわち,desmogleinのisoformの発現異常は表皮細胞の癌化や癌細胞の浸潤様式に関係しているものと考えられた.そこで,6例の有棘細胞癌と3例の基底細胞癌の病変部組織から抽出したmRNAを用いてRT-PCR法を用いてdesmogleinの発現を検索し,さらに、in situ hybridization法と免疫染色法によってそれぞれのisoformの局在を検索した.その結果,癌組織ではDsg1,2,3の発現が混在していたり、Dsg1や3の発現が欠落していた.癌組織においてはDsg1(落葉状天疱瘡抗原)やDsg3(尋常性天疱瘡抗原)をはじめplakoglobinやdesmoplakinなどの裏打ち蛋白の発現は減弱していたり,不均一な発現様式であった.一方,adherence junctionに存在するE-cadherinの発現は比較的良く保たれていた.表在型底細胞癌の1例では、腫瘍部においてデスモゾーム抗原の発現はほとんど欠落しているにも拘わらず,E-cadherinの発現は正常であった.電子顕微鏡による観察では、未発達なデスモゾームが存在するのみであった.すなわち,表皮細胞腫瘍においてはE-cadherinよりもデスモゾームの構成成分であるdesmogleinの発現に異常を示すことが多く,腫瘍細胞の離解を起こしたり、浸潤様式に影響を与えているものと思われる.
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