研究概要 |
神経線維腫症(neurofibromatosis,NF)は古典的なレックリングハウゼン病(neurofibromatosis 1,NF1)と遺伝性両側性に聴神経腫瘍のみられる両側性聴神経神経線維腫症(bilateral accoustic neurofibromatosis,NF2)に大別されている.NF2は中枢に神経鞘腫や髄膜腫などが多発し,常染色体優性遺伝する疾患である.NF2遺伝子は22q12に座位は,遺伝子産物はmerlinまたはshwannominと命名され,この蛋白は細胞骨格関連蛋白であるmoesin-ezrin-radixinと相同性がみられる.腫瘍発生への機作は明らかにされていないが,NF2遺伝子はKnudsonにより提唱された網膜芽細胞腫遺伝子のtwo-hit説があてはまり,癌抑制遺伝子の特徴を持っている.NF2は臨床的に発症が20歳以下で,腫瘍数も多い早発型(Wishart型)と発症が20歳以降で,腫瘍数も少ない遅発型(Gardner)に分類される.多発性神経鞘腫症は,聴神経腫瘍を伴わずに皮膚や脊髄などの末梢神経に神経鞘腫が多発する疾患で,我々は神経鞘腫症とNF2は同一疾患であると報告した.我々が調べた神経鞘腫症は発症年齢が遅く,Gardner型が属すると考えられる.現在我々はNF2遺伝子変異をPCR-SSCP法により検索しているが,フレームシフト突然変異4例,点突然変異1例が検出されている.また,NF2遺伝子変異の同定法としてNF2遺伝子変異の多くが蛋白合成を中断する特徴を利用し,protein truncation test(PTT)法を用いて,NF2遺伝子変異の検出を行った.結果は4腫瘍組織中3例(75%)に蛋白合成の異常を認め,遺伝子解析の結果,C末端側の異常2例,N末端側の異常1例であり,1例はExon16のインサーションであり,残りのものは現在解析中である.PTT法はPCR-SSCP法(変異検出率38.5%)よりも感度が良く,スクリーニングには良い結果が得られた.しかし,腫瘍からの検索には良いが,腫瘍発生前の遺伝子診断にはPCR-SSCP法がやはり良いと思われた.
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