角層肥厚細胞膜は表皮トランスグルタミナーゼ(TGase)の働きによってグルタミンリッチタンパクとリジンリッチタンパクの間で架橋反応がおこることによって形成される。我々が新生仔ラット表皮から分離したリン酸化シスタチン_αはTGase のリジンリッチ基質となるが、プロフィラグリン分解産物でグルタミンリッチなフィラグリンリンカーセグメントペプチドの存在下でTGase と反応させた場合、より多くの高分子重合タンパクの形成が認められた。そこでフィラグリンリンカーセグメントペプチドも角層肥厚細胞膜の構成成分であるかどうかを調べるため、このペプチドに対する抗体を作製して免疫組織学的な検討を行った。その結果蛍光抗体間接法で顆粒層ケラトヒアリン顆粒と角層細胞膜が反応陽性となった。さらにラット角層から肥厚細胞膜を精製しpre-embedding 免疫電顕法を行ったところ、二次抗体に用いた金顆粒の特異反応が角層肥厚細胞膜にそって認められた。したがってフィラグリンリンカーセグメントペプチドも角層肥厚細胞膜の構成成分であることが明らかになった。またリン酸化シスタチン_αの生物学的な機能に関しては、新生仔ラット皮膚上で黄色ブドウ球菌の増殖を抑制している可能性を示唆する知見が得られている。そこでヒト皮膚上ではシスタチンAが同じような機能を有しているのではないかと考え、皮膚の防御機能の低下が認められるアトピー性皮膚炎患者皮膚を用いて酵素抗体法を行ったところ、患者皮疹部皮膚で抗シスタチンA抗体の反応性が低下していた。また患者皮疹部皮膚でのシスタチンA量をELISAで定量したところ、アトピー性皮膚炎皮疹部皮膚で正常皮膚とくらべて有意に低下していた。したがってシスタチンAが皮膚の生体防御機能を担う物質の一つであることが考えられた。
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