研究概要 |
現在の制癌研究は、抗癌剤、放射線、免疫療法など、いずれにしても癌細胞を直接攻撃して死滅させる方向のものが大部分をしめているが、本研究は"兵糧責め療法"とも言うべき腫瘍血管新生抑制を目的とした新しい制癌法を見つけるための方法論の確立を目的とした。そのために、平成7年度の研究では、東北大・加齢研の堀らによって開発されたラット用アルミニウム性透明窓を改良した小型のマウス用透明窓を開発した。また、WHT/Htマウス移植癌5種類を用い、その放射線感受性と細胞喪失型式をTCD50法と、^<125>I-IUdRラベル法で調べ、低酸素細胞の成因の違い(急性低酸素細胞、慢性低酸素細胞いずれが優位かなど)を推定した。そのうち、最も放射線抵抗性で低酸素細胞分画が65%と最も多い線維肉腫YASと最も放射線感受性が高く低酸素細胞分画が16%と少ない偏平上皮癌Hを選び出し、この透明窓内に植え、透明窓内での腫瘍増殖を観察した。偏平上皮癌Hでは、腫瘍細片を透明窓の中央に移植すると3日目に腫瘍を植えた周囲の血管より細い血管新生し始め、5日目には腫瘍の部分が約2mm径の大きさの円形の構造物として監察されるようになった。その周囲を100倍の倍率で鏡検すると周囲血管より新生した径約10μmの腫瘍血管が入り込んでいるのがわかった。6、7日目には腫瘍の中央部分に壊死層が出現し無血管野が生じ、腫瘍血管は腫瘍の周辺部にのみに存在しただけであった。同様のことを、線維肉腫YASで行ったところ、2日目で植え込んだ腫瘍に新生血管に入り込様子が観察された。5日目には直径4mmほどに成長し、腫瘍全体に細い腫瘍血管が分布しているのが観察された。6,7日目でも中心壊死はわずかであった。低酸素細胞分画の大きい腫瘍の方が腫瘍血管の発達が著しいという、矛盾した結果であったので、FITC-dextranを尾静脈より注射し蛍光顕微鏡下で白血球の動きをビデオで観察し、血流動態を調べたところ、偏平上皮癌Hでは定常の流れであったが、線維肉腫YASでは血流が時間により常に変化してるという極めて興味深い事実が見つかった。この事実は、細胞喪失型より推定された低酸素細胞の成因に一致していた。このように、腫瘍の種類で腫瘍血管新生状態と腫瘍細胞の関係、腫瘍血管の分布形態が大きく違うことがわかり、この透明窓の方法を用いれば、腫瘍血管新生抑制がより有効である腫瘍はどのようなものであるかを選別できる可能性のあることがわかった。
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