研究概要 |
子宮癌などのため放射線治療を受けた人々では、大腸癌が増加することが知られている.そこで,当施設に保存されている3000例の大腸癌切除例から,放射線照射の既往歴のあるものを選び出し,臨床病理学的特徴の解明,さらに線量効果関係・遺伝子変化検討する研究を計画して,以下の結果をえた. 当施設において放射線治療後に発見された大腸癌は29症例であり,その特徴として(1)直腸前壁に多い,(2)組織型は粘液癌が多く,時に非常に分化のよい超高分化腺癌がみられる,(3)比較的予後が良好である(とくに粘液癌において),(4)比較的長期間のintervalがある(10年以上),(5)多くに放射線大腸炎の組織所見があり,ときにdysplasiaやcolitis cystica profunda(CCP)が併存する,(6)Intervalが長くなるにつれて,粘液癌の比率が増え,放射線大腸炎やdysplasia,CCPの出現頻度も増え,良好な予後を示す症例も増える,などがあげられた. また,放射線誘発大腸癌の発生は,放射線が直接粘膜細胞に作用し癌化を起こさせるのではなく,放射線照射による長期間の慢性炎症に起因して癌が発生する可能性が示唆された。 本研究では,所期の線量評価,および遺伝子変化の検索において有意な結果を得ることができなかった.線量評価については,A点照射量の記載がpilot studyでの予想以上にまちまちであったこと,また遺伝子の検索については,材料の組織中のDNAが予想以上の変性を被っており,これまで行ってきた方法,実験条件ではPCRでの安定な増幅が不可能であったことが原因である.とはいえ,材料の豊富さ,照射設備の一定さという点では,当研究所の材料は,比類のないものであり,上記の目的を達成するために今後も方法の改善に取り組む予定である.
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