研究概要 |
トレット症候群は複雑な運動チックと一つ以上の音声チックを伴う重症型チック症である。トレット症候群は浸透率の低い常染色体優性遺伝と考えられ、治療面ではドパミン受容体を遮断するHaloperidolが著効を示すことが知られている。しかしトレット症候群におけるドパミン系システムの異常は同定されていない。本研究ではD2受容体、D4受容体の遺伝子多型を調べ、トレット症候群の病因と病態を探ることを目的とした。 患者より採取した血液からのgenomic DNA抽出を行い、PCR法でドーパミン受容体の多型性部位を増幅、制限酵素での消化により多型性の検討(RFLP法)を行った。 解析対象とした多型性部位は、第11染色体長腕の11q22-23にあるドパミンD2受容体の下流に存在するTaqIA部位、ドパミンD2受容体上流に存在するTaqIB部位、そして第11染色体短腕の11q15.5に同定されるドーパミンD4受容体の細胞質内第3ループに存在する2〜7回の48bp繰返し多型配列である。 同意のとれた7名のトレット症候群患者および28名の傾眠症患者、Berrettini WHらの報告したAfrican-American88名の正常対照者について、D2TaqIA部位、D2TaqIB部位対立遺伝子頻度を比較した。D2TaqIA部位では,トレット症候群がA1:14%(2/14)A2:86%(12/14)であるのに対し、傾眠症群ではA1:43%(24/56)A2:57%(32/56),正常群ではA1:40%(70/176)A2:60%(106/176)であった。D2TaqIB部位では,トレット症候群患者B1:14%(2/14)、B2:86%(12/14)で、傾眠症群ではB1:39%(22/56),B2:61%(24/56),正常群ではB1:22%(38/176),B2:78%(138/176)であった。D4受容体の多型についてはトレット症候群患者にのみ行った。結果C3(4回反復):15(94%)C1(2回反復):7(6%)であった。なお健常日本人中での対立遺伝子頻度はC1:1% C2:5% C3:78% C4:1% C5:15%と報告されている。 今回の研究では症例数が少なく統計的な比較検討はできない。少数例での予備的検討として、トレット症候群患者ではD2受容体のTaqIA部位でもTaqIB部位でもTaqIにて切断されるA2,B2対立遺伝子を少なくとも一つは持っており、A2,B2対立遺伝子と疾患との関連があるかもしれない。
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