研究概要 |
長崎大学医学部倫理委員会において研究実施許可を得て,長崎大学精神神経科を含む長崎県下の精神科治療施設に入院中または通院中のDSM-III-Rで感情障害と診断された患者とその家族を対象にスクリーニング調査を行った。その結果見出された気分障害親子発症例中,表現促進を示唆する子世代における明らかな発症年齢の低下が認められた親子発症組で,研究への同意が得られた親子7組より血液試料の提供を受けた。提供血液試料からゲノムDNAを抽出して凍結保存した。遺伝研究用面接基準(FIGSなど)の適用が充分でなかったため,臨床遺伝学的情報の収集は診療録を基に行った。 この合計7組15名の保存DNA試料を用いて,感情障害の候補遺伝子の一つと考えられ,反復配列多型の存在が報告されているセロトニン輸送体遺伝子の第2イントロン内の17塩基反復配列の繰り返し数について調べた。上記DNA試料から,既に報告されているLeschらの方法に準じてPCR増幅を行った。このPCR産物における17塩基反復配列の繰り返し数をポリアクリルアミドゲル電気泳動にて推定したが,一部についてはさらに直接塩基配列決定を行って決定したところ,繰り返し数は,10回と12回のみであった。しかしながら,繰り返し数と子世代における発症年齢の低下との関連性を示唆する結果は得られなかった。より確実な結論を導くには,サブクローニングした後の塩基配列決定や両親を含めた症例数の増加と正常対象群との比較が必要である。また,遺伝研究用面接基準(FIGSなど)を行う面接者を育成することにより全例への面接を可能とし,両親からの遺伝負因のより確実な除外等も必要であろう。セロトニン2型受容体遺伝子を含め,他のセロトニン関連受容体遺伝子の変異の検討もまだ残されている。
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