研究概要 |
【目的】高齢者のうつ状態はアルツハイマー病(AD)や無症候性脳梗塞などの器質疾患が背景にあることが知られている.最近,アポ蛋白E-ε4 allele(ε4)がADの危険因子であることが確立してきた.我々は精神症状を主症状とし痴呆を伴わない高齢患者のアポ蛋白E遺伝子頻度を測定し,高齢者のうつ状態がADとの関連でどのような意義を持つかを検討した.【対象と方法】対象は60歳以上の高齢者で痴呆を伴わずに精神症状主訴とする114人,AD80人,対照129人,精神症状はDSM-IVに従いMood Disorders(MO,N=26),Anxiety Disorders(AN,N=25),Somatoform Disorders(SO,N=35),Dissociative Disorders(DI,N=4),Sleep Disorders(SL,N=4),Psychological Factors Affecting Medical Condition(PS,N=8),Other Conditions(OT,N=9),およびAsymptomatic Cerebral Infarctions(CI,N=3)に分類した.うつ状態はHamilton Self Rating Depression Scaleを用い10点以上を異常とした.アポE表現型は患者血清より等電点電気泳動法によって決定した.各疾患カテゴリーごとにアポE-ε4保有者の比率を求め,ADおよび対照との差をχ^2検定にて検討した.【結果】これまでの報告どおりADではε4保有者の比率は53.8%で対照(20.2%)より有意に高かった(p=0.0001).精神症状ではMOのみε4保有者の比率が対照より有意に高かった(38.5%,p=0.0437).しかし他の疾患カテゴリーではAN(20.0%),SO(11.4%),DI(0%),SL(0%),PS(0%),OT(11.1%),CI(0%)といずれも対照とは差がなかった.1年4ヶ月の観察期間の中で痴呆症になった例はなかった.【考察】高齢者のうつ状態はアポ蛋白E遺伝子頻度に関して他の精神症状とは異なる特異なものであり,ε4を介してADとの関連が密接であることが明かになった.高齢者うつ状態一般をADと直結させることには慎重でなければならないが,高齢者のうつ状態でε4を保有している場合には将来ADに罹患する可能性があり経過観察が必要と考える.
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