研究概要 |
シグナル蛋白ShcはチロシンキナーゼによるRas活性化に関与すると考えられている。本研究では、上皮成長因子(EGF)受容体からのシグナル伝達におけるRas活性化以外のShcの機能を、新しいShc結合蛋白を同定することにより明らかにしようとした。Glutathion S-transferase (GST)との融合蛋白として大腸菌で発現させたShcには、ウシ脳ライセ-ト中の115,110,100,50,17-kDaの蛋白が結合した。アミノ酸シークエンスの結果、100-kDaの蛋白はβアダプチン、110,115-kDaの蛋白はαアダプチンのアミノ酸配列に一致した。抗αおよびβアダプチン抗体による免疫ブロットによっても、GST-Shcへのアダプチンの結合が確認できた。さらに、PC12、 KB、 COS細胞ライセ-トを抗Shc抗体で免疫沈降するとアダプチンが共沈し、Shcとアダプチンの結合はintact cellにおいても見られた。そこで、Shc分子内のアダプチンの結合部位を明らかにするために、種々の改変GST-Shc融合蛋白を作成した。Phosphotyrosine binding (PTB)、 collagen homologous (CH)あるいはSH2の各ドメインだけを発現させた改変GST-Shcおよび各ドメインを欠失させた改変GST-Shcを用いた検討で、ShcのCHドメインがアダプチンの結合部位であると考えられた。ShcのCHドメインにさらに種々の変異を導入して検討した結果、Shcのアミノ酸346-355位(RDLFDMKPFE)がアダプチンの結合部位であることが明らかになった。アダプチンはcoated pitやcoated vesicleの構成蛋白であり受容体のインターナリゼーションに関与していることや、ShcはEGF依存性にEGF受容体と結合することから、Shcがリガンド依存性の受容体のインターナリゼーションに関与する可能性が示唆された。
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