研究概要 |
我々はメチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)感染後に,ネフローゼレベルの蛋白尿を伴う急速進行性糸球体腎炎症候群を呈する新しい腎炎を発見し,その成因にスーパー抗原としてのMRSAのエンテロトキシン(staphylococcal enterotoxin,SE)の関与を報告してきた.本腎炎の発症機序としては,MRSA由来SEがスーパー抗原として作用し、MHCクラスII抗原の非多型性領域に結合して、特定のT細胞受容体(TCR)Vβ領域の相補的決定部位以外の領域を介して認識され,それにより広範なT細胞の活性化,サイトカインの過剰な放出,B細胞の活性化が生ずるものと考えられた.そこで,TCRとスーパー抗原と複合体を形成するMHC分子の検討を行った.MRSA感染症例の末梢血リンパ球を採取し,微量細胞障害試験(Terasaki-NIH標準法)により血清学的HLAタイピングを施行した.MRSA感染症例中SE-Cが検出された19症例を,MRSA感染後腎炎発症群(n=13)と腎炎非発症群(n=9)とで比較すると,腎炎発症群でDR9もしくはDR12を有する症例が有意に多かった.このことから,MRSA感染後に本腎炎を発症するか否かにはMHCクラスIIのタイプとエンテロトキシンとの親和性の重要性が推測された.すなわち,高い親和性を有する場合には一過性のT細胞活性化が生じ,速やかにTCRVβ+T細胞は減少・消失(negative selection)し,低親和性のMHCを持つ群は徐々に活性化され,TCRVβ+細胞が増加し,positive selectionがかかる可能性が推定された.現在,MHCのH-2のみのハイプロタイプの異なるB10系のコンジェニックマウスを用いて,エンテロトキシンとMHCクラスII抗原との親和性を中心として,腎炎惹起性についての検討を行なっている.
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