研究概要 |
長期血液透析患者にはβ2-ミクログロブリンを前駆蛋白とするアミロイド症が発症し,長期の透析治療による延命を阻むことが臨床的に重大な問題となっている。本研究では,アミロイド前駆蛋白(β_2-ミクログロブリン)の過剰発現によるアミロイド沈着を起こす新しい疾患モデル動物を開発し、治療対策に寄与することを目的として計画した。本研究では,ヒトβ_2-ミクログロブリン遺伝子を過剰発現するトランスジェニックマウス作成のための基礎検討を行った。まず,ヒトリンパ球よりβ2-ミクログロブリンcDNA遺伝子をPCR法により取り出した。そして,翻訳領域全長を含むcDNAをモロニ-白血球ウイルスゲノムDNAをプロモーターとしてつなぎ,SV40ウイルスゲノムDNAのタ-ミネーター機能領域DNA断片を末端にした遺伝子を構築した。この遺伝子を培養細胞に移入し,培養液中にヒトβ_2-ミクログロブリンが放出されることを確認した。そこで,まず近交系であるC57BL/6マウスの受精卵にマイクロインジェクション法により,ヒトβ_2-ミクログロブリントランスジェニックマウスの作成を試みた。その結果,マウスの切断尾のサザンブロット解析により約10%にあたる6匹のマウスにおいて導入遺伝子の発現を確認した。β_2-ミクログロブリントランスジェニックマウスF2世代以後4系統を継代することができた。まず,各世代12〜24週で屠殺して,各臓器を病理組織学的に検討したところ,Congo red染色で明らかな陽性を示す所見は得られなかった。抗ヒトβ_2-ミクログロブリン抗体による免疫組織化学染色では,主として肝に陽性所見がみられた。以上,現時点において本研究で開発したβ_2-ミクログロブリントランスジェニックマウスは,アミロイド前駆蛋白を過剰発現するもののアミロイド線維形成をもたらすモデルに至っていない。今後は,前駆蛋白の発現量とアミロイド沈着を起こす時期(月齢)と飼育環境条件をかえて詳細に検討していく予定である。
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