平成7年度の科学研究費申請時に掲げた目的のうちで本年度に結果を得たことは、我が国のAlport症候群におけるIV型コラーゲンα鎖遺伝子(COL4A5)の突然変異の特徴を明らかにしたことである。 COL4A5はエクソンが51個あるため、スクリーニングとしてPCR-SSCP法を採用した。アルポート症候群60例において、COL4A5の全51個のエクソンの検索を終了した。その結果COL4A5から22種類の突然変異が判明したが、各家族がそれぞれ異った突然変異であった。突然変異は一塩基置換や数塩基挿入や欠失であり、PCR-SSCP法が非常に有効であった。つまり、我が国のアルポート症候群は、欧米諸国の患者に比べると点突然変異、数塩基挿入や欠失などの小さな変異が多いことが判明した。 この特徴(genotype)は我が国のアルポート症候群の臨床症状(phenotype)にも関連しているかもしれない。我が国のアルポート症候群は次の二点に関して欧米の症例と比べ特徴がある。第一点は、腎移植を受けたアルポート症候群患者は特殊な拒絶反応として時にalloantibodyによる抗基底膜抗体腎炎を起こすことがある。これは殆どが欧米から報告されているのみで、我が国からの報告は認められない。第二点は、びまん性食道平滑筋腫症という良性腫瘍がアルポート症候群に合併することがあるが、我が国からの報告はやはり現在までに2〜3例にしか過ぎない。これらの特殊な症状を有するアルポート症候群が我が国において稀である事実は、今回の我々の研究によってある程度説明が可能になったと思われる。と言うのは、これらの欧米患者には、我が国には稀な突然変異であるCOL4A5からCOL4A6におよぶ範囲の広い遺伝子欠失が多く認められているからである。
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