本研究の目的は我々の肝移植後における免疫抑制剤タクロリムス投与法の妥当性を薬物体内動態の解析から検討し、問題点を明確にすることにある。まず、タクロリムス投与量と日々のトラフ値の変動を過去の症例につき解析し、副作用、拒絶反応の発生率を検討したところ、初期の静脈内投与を主体とした症例では有意に薬物毒性、ウイルス感染症の発生頻度が高く、現行の経口投与のみによる投与法ではこれらの副作用が減少したのみならず、拒絶反応の発生も増加は認められなかった。従って、肝移植後のタクロリムス投与は、術直後から経口で投与することが有利であることが明らかとなった。つぎに、経口投与後の薬物動態を術直後と術後3週の時点で検討し、投与時期による変動につき解析を行った。術直後では経口投与後血中濃度がピークを形成する時間、ピークの高さ共に症例間で大きな差が認められ、消化管からの吸収と移植肝での代謝が不安定なことに起因すると考えられた。しかし、この時点でもAUCとトラフ値の間には有意の相関が認められた。術後3週では症例間の差は縮小し、AUCとトラフ値との相関もより明らかとなっていた。この結果から、術直後には移植肝機能及び消化管機能の回復程度を考慮した投与量の調節が必要であるが、トラフ値をモニタリングしつつ日々投与量を調節するかぎり、我々の経口投与法は薬物動態からみても合理的であることが示された。 今回検討対象としたのは術後経過の安定した症例であり、今後は特に移植肝機能の不安定な症例における検討が重要となると思われる。
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