研究概要 |
メサイオニン(Met)は生体内の重要なメチル供与体であり,DNAは複製化の直後にメチル化されることにより,endonucleaseによる分解から守られている.本研究では腫瘍細胞は正常細胞に比べてMet依存性が高いことに着目し,Met欠乏を介した新たな抗癌療法の開発を目的とした.in vitro培養ヒト腫瘍細胞株を対象とし,Met,ホモシステイン性欠乏培地による増殖を観察したところ,in vitro Met依存性は9株中7株(78%)に認められた.ヌードマウス可移植性ヒト癌株における検討はMet欠乏食餌による飼育により行い,in vivo Met依存性は13株中4株(31%)に存在することを確認した.これらのMet依存性は癌の種類によらず広く分布しており,臨床における治療法として広範に応用可能であると考えられた.さらにMet欠乏療法は各種抗癌剤との併用が可能であった.Met欠乏はMet非依存性株であるヒト乳癌株MX-1に対して,CDDPのmodulatorとして働き,CDDPの抗腫瘍効果をin vivoで増強した.Met欠乏は部分的Met依存性株であるヒト胃癌株SC-1-NUに対して,TS阻害率の上昇を介して5-FUの抗腫瘍効果をin vivoで増強した.Met欠乏は,Met依存性腫瘍に対しては,代謝拮抗剤として単独で抗腫瘍効果を示し,Met非依存性腫瘍に対しても,既存の抗癌剤のmodulatorとして抗癌剤の抗腫瘍効果を増強した.今後ヒト腫瘍に対する化学療法としての臨床応用が期待される.
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