研究概要 |
近年,DNA複製の際のミスマッチ修復系の破綻による発癌機構が報告され,発癌素因との関連で注目されている。このDNA複製エラー(replication error : RER)の標的となる遺伝子については,癌細胞の増殖に抑制的に作用するTGF-βのtype II receptor (TGFβ-RII)遺伝子の変異が最近報告された。本研究においては大腸腫瘍を対象にDNA複製エラーおよびTGFβ-RIIその他の癌関連遺伝子変異の解析を行い,その臨床的意義について検討することを目的とした。 手術時に摘出された大腸癌92例および大腸内視鏡検査時に切除された大腸腺腫内癌25例を対象とし,中性ホルマリンもしくはマイクロウエーブ固定標本のパラフィン切片から顕微鏡下に正常および癌部分を切り出しDNAを抽出し,以下の遺伝子解析を行った。RERについてD2S123, D3S1067, TP53の3つのlocusを中心にmicrosatellite instabilityの有無を判定し,TGFβ-RII遺伝子の中の反復配列の異常,K-ras遺伝子変異をPCR法にて解析した。またp53遺伝子異常についてはCM1抗体を用いた免疫染色にて解析した。 その結果をまとめると(1)RERは高,中分化型大腸癌の15〜20%に検出されたが,低分化型,印環細胞癌では52例中25例(48%)HNPCC症例では7例中5例(71%)と高率であった。(2)大腸腺腫内癌においてRERは25例中4例(16%)と進行大腸癌と同頻度に検出され,うち3例で隣接する腺腫部分ですでにRER(+)であった。RER(+)の2例に進行癌の合併を認めた。(3)RERとp53, K-ras遺伝子変異の間に関連は認めなかった。(4)RER(+)症例21例中11例にTGFβ-RIIのA反復配列の変異が検出された。 以上より,DNA複製系異常(RER)はHNPCC以外の散発性の大腸腫瘍においても特に低分化腺癌における関与が示唆され,その標的としてはTGFβ-RII遺伝子変異が重要であると考えられた。現在,大腸の発癌リスク評価としてのRER解析の意義について更に症例を増やして検討中である。
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