研究概要 |
多孔質ガラス膜を用いた膜乳化法により、きわめて均一な直径を有するヨウ素化ケシ油の油滴内に抗癌剤(エピルビシン)の水溶液を小水泡として包含した肝細胞癌(HCC)治療用の二重乳化型エマルションを開発した。種々の調整条件で検討した結果、polyglycerol esters of polycondensed fatty acids of castor oilとpolyoxyethylene 60 stearate(hydrogenated castor oil treated with ethylene oxide,1:60,molar ratio)の二種類の界面活性剤を用いることにより、極めて安定なダブルエマルションが得られた。このエマルションをヴァイアル中で室温下に保存した場合1カ月以上にわたって安定であった。また、乳化膜の細孔径を変えることにより、ヨウ素化ケシ油の油滴サイズを1-70μmの範囲で自由に設定できた。さらに、エピルビシン以外の薬剤を包含するための基礎実験を行い、油滴内にマイトマイシンや5-Fuの水溶液を包含することが可能となった。家兎を用いた実験により、肝動脈内に投与されたヨウ素化ケシ油の油滴サイズが70μmならば、肺への逸脱が投与量の数%以下と極めて少ないことがわかった。さらに、ヨウ素化ケシ油の油滴の直径を変えて本剤の臨床効果を検討した結果、直径70μmの油滴の場合に良好な結果が得られた。エピルビシンの1回投与量60mg、ヨウ素化ケシ油の油滴サイズ70μmという条件下に調整されたダブルエマルションを用いた肝動注療法を、HCCの術後再発例24症例に対して施行したところ、累積生存率は3年50%、5年24%であり、これまで治療困難とされた4個以上の癌腫を有する例でも3年生存率50%と顕著な効果が得られた。
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