研究概要 |
腫瘍の増殖は生体における免疫監視機構から何らかの原因で離脱することによる。実際に癌患者末梢地における細胞性免疫能低下は周知のことであり、癌発生の一因となっていると考えられる。一方、サイトカインは生体の免疫機構を微妙に調節しており、その一部は腫瘍増殖因子としても知られている。我々は肝癌の発生、転移、浸潤にこれらのサイトカインが関与していること、特にTNF-αは癌の進行に従って上昇することを報告した。今回我々はまず第一に、各種サイトカイン、およびこれらの調節、または腫瘍の転移、浸潤に作用していると思われる接着因子の両面から研究を進めた。第二に、癌患者の免疫能低下とサイトカイン、接着因子との関係を、これらの因子の患者リンパ球に対する作用の面から検討した。 1)まず各種サイトカインの患者血清中、および癌部、非癌部組織より抽出した抽出液中の各種サイトカインとICAM-1を測定したところ、ICAM-1は癌部、非癌部共に正常肝の比較して高値を示し、癌部でGM-CSF,TNF-αが、非癌部でIL-1,2,6が高値を示した。一方、肝癌組織より得た樹立細胞株上清中にICAM-1が検出されかつ各種サイトカイン刺激でその産生増強が確認された。さらに細胞表面のICAM-1発現率はTNF-α,GM-CSF,IL-1,IFN-γ刺激時に若干の増強がみられた。これは肝癌組織の免疫染色でも確認された。また、腫瘍細胞の増殖には腫瘍細胞のB7-1,B7-2発現率が関与していることが免疫学的にしられているためこれがサイトカインによってどのように変化するかを検討した結果、B7-1はTNF-α,GM-CSFの濃度依存性に発現増強がみられたもののB7-2では各サイトカインいずれも発現抑制がみられた。 2)癌患者では末梢リンパ球に活性低下がみられる。これは癌増殖と深く関与していると思われるため、この末梢リンパ球および癌部浸潤リンパ球機能の検討を行った。まずこれらリンパ球反応性は共に低下していたが、腫瘍誘導物質、TPAに対する反応性のみ亢進がみられた。これは非常に興味ある知見と考えている。また、現在2年異常肝癌様の形態を維持したまま継代されている細胞株:MS-1では自己のリンパ球が採取可能なため、この障害活性を測定したところ、非自己のリンパ球では障害活性がみられなかったが自己のリンパ球で34%の障害活性がみられ、サイトカイン処理でこれがさらに上昇した。 以上より、サイトカインが腫瘍細胞表面のco-stimulatory分子を発現し、CTLの活性化に関与していると考えた。
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