研究概要 |
ヒト食道扁平上皮癌培養細胞株におけるMAGE遺伝子ファミリーの発現は、MAGE-1,67%;MAGE-2,22%;MAGE-3,33%;MAGE-3/6,78%;MAGE-4/41,44%であり、また食道扁平上皮癌65例では各々19%、26%、'2%、5%、8%であった。一方、転移リンパ節での発現をみると、MAGE-1とMAGE-2のみに発現がみられ、その頻度は各々46%と18%であった。MAGE遺伝子ファミリーの発現と病理組織因子との関連性を検討すると、癌深達度ではa0が16.7%であったのに対しa1-3は40.4%と後者が有意に高率であった。しかし、リンパ節転移の有無別では、転移陰性例の陽性率は30.0%、転移陽性例では35.6%と差はなかった。進行度では、stage0-IIが9.1%、stageII-IVでは38.9%と後者で高率の傾向を認めた。なお、分化度別の比較では高・中・低分化型の3者間に差を認めなかった。MAGE遺伝子発現の有無と予後との関係を根治切除例を対象として術後生存曲線で検討すると、両者間に有意差を認めなかった。抗MAGE-1と抗MAGE-4モノクローナル抗体を作製し、ヒ卜食道癌培養細胞と新鮮凍結組織切片を用いて免疫組織染色で発現性を検討した。その結果、抗MAGE-1抗体を用いたWesternb1otでは良好な反応性を示したものの組織染色では反応が不安定で、陽性反応を明確に識別することは困難であった。一方、抗MAGE-4モノクローナル抗体は、Westernbot及び免疫組織染色ともに癌細胞に良好な反応性を認めた。そこで、抗MAGE-4モノ及びポリクローナル抗体によるサンドイッチ法によりELISA kitを作製し、食道扁平上皮癌患者血清中のMAGE-4発現について検討した。非癌患者の大半は1.0ng/ml以下の値で、cutt offはMean±2SDとなる1.15ng/mlに仮設定した。食道癌組織におけるMAGE-4蛋白濃度測定では、陽性例は8/38例(21.1%)であった。食道癌患者の術前後のMAGE-4蛋白濃度変化では、殆どの患者は術後にcutt off値以下にまで低下したが、術後再発を認めた1例はさらに高値を示した。リコンビナントMAGE蛋白を抗原とし、食道癌患者の末梢血より採取したリンパ球をエフェクターとして自家癌特異的キラーT細胞を誘導実験を施行した。しかし今回の実験では何れも誘導樹立できなかった。
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