研究概要 |
大動脈内バルーンパンピング(IABP)と経皮的心肺補助法の併用法(BP+PS)には,次のような問題点がある.:1)心負荷が少なく,かつ重要臓器への血液供給も充分なバイパス流量の設定が困難,2)心機能回復の判定が困難.我々の考案した新しい補助循環法(分離補助循環法:SCAD)がこれらの問題点を克服できるかどうか,BP+PSと比較検討した.本法は胸部下行大動脈(DTA)遠位部を遮断することによって体循環を二分し,上半身をIABP補助下の自己心で,下半身をPCPSで灌流する方法である.【方法】雑種成犬27頭(10〜30kg)を用い,人工心肺を右房脱血,右大腿動脈送血で装着し,DTAにIABPカテーテル(7〜12cc)を挿入した.心不全を作成し,完全房室ブロックと低体温(30-32℃)を加え,心室ペーシングにて心拍数を一定に保った(80-86/分).次の設定条件の下,DTA遮断(タ-ニケットによる)の有無で,圧および心筋酸素消費量(MVO_2)を測定した.設定:1)人工心肺バイパス流量(ByF)を100,70,50,30ml/kg/minに設定,2)平均左房圧(mLAP)はDTA遮断の前後で同一.【結果,結論】1)MVO_2や各種圧パラメータにはByFの絶対値というよりもDTA遮断部位での“血流優位性"による影響が大きいことが判った.すなわち自己心からの駆出流よりもバイパス流が優位な場合はSCAD群のほうが上行大動脈ピーク圧(pSP)およびMVO_2を有意に低くできることが判った.また,IABPによる効果も有意に大きいことが判った.したがって,人工心肺バイパス流が優位で胸部大動脈に流入する場合には,DTA遮断によって心負荷が少なく,かつ重要臓器への血液供給も充分な血行動態が得られることが判った.2)重回帰分析から,BP+PS群のMVO_2はpSPとByFによって主に規定されるが,SCAD群のMVO_2は主にpSPとmLAPによって規定され,ByFの影響を受けないことが判った.したがって通常の前負荷および後負荷から実時間に心負荷の程度や心機能状態が判定でき,離脱時期判定が容易となることが示唆された.以上,分離補助循環法は,BP+PSの問題点を克服できる有用かつ簡便な補助循環法であることが判った.
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