研究概要 |
末梢軸索損傷後におこる脊髄内および一次感覚神経におけるカルシルム依存性細胞接着分子E-cadherinとカドヘリン関連細胞内蛋白alpha N-cateninの発現変化を免疫組織化学および生化学的に検討し,これらの分子の発現制御機構ならびに成熟マウス神経構築に果たす役割を検討した. 1.末梢神経鞘内では,軸索の損傷後シュワン細胞が反応性に増殖・遊走しシュワン細胞管を既存の基底膜内で形成し,軸索再生を誘導する.この反応性シュワン細胞の相隣接する細胞間,再生軸索を覆うシュワン細胞突起間,髄鞘再生時の細長く軸索を取り囲むシュワン細胞突起とその細胞体間でE-cadherinが発現していた.後根神経節内では,軸索損傷の如何によらず,隣接する衛星細胞間および衛星細胞-後根神経節細胞間にE-cadherinが発現していた.これらのことより,末梢グリアのネットワークの維持のみならず,軸索再生と髄鞘再生に関わるグリアの接着にE-cadherinが強く関与していることが示唆された. 2.脊髄Rexed第II層に局在するE-cadherinの発現は,末梢軸索損傷後1週に消失し,損傷後9週において,末梢枝の変性群ではE-cadherinの発現が消失したままだったのに対し,再生群ではE-cadherinの発現のは回復した. 3.alpha N-cateninは脊髄灰白質にびまん性に発現し特に中心管と脊髄後角浅層に強く発現し,脊髄第II層でのalpha N-cateninの発現は末梢軸索損傷後1週に他の脊髄灰白質と同じレベルまで低下し,損傷後9週において,完全変性群ではalpha N-cateninの発現が減少したままだったのに対し,部分的再生群では発現が回復した.すなわち,第II層でのalpha N-cateninの経時的変化はE-cadherinに全く同調していた.E-cadherinとalpha N-cateninの発現が同調して変化することから,第II層においてalpha N-cateninがE-cadherinの細胞内領域に結合してその接着性を制御しており,さらに末梢からのなんらかのシグナルがE-cadherinとalpha N-cateninの発現を維持していると考えられた.このことは,末梢側軸索損傷後におこる脊髄第II層での知覚神経終末の可塑性の一端をE-cadherin-alpha N-catenin複合いっ端体が担っている可能性を示唆する.
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