研究概要 |
難治てんかんに対する脳梁離断はもともと,発作波が対側大脳皮質に波及するのを阻止し,二次性全般化を抑制すると期待されて始められたが,手術有効例で発作が部分化するというよりは発作頻度の減少と持続の短縮,症状の軽減化が顕著であることから,てんかん性異常神経活動の発現と維持を抑圧し,発作閾値を高めると考えられるがその機序は明らかでない.神経細胞軸策が切断されると,末梢側は変性消失,その後逆行性変性が起こると考えられ,それに伴い局所的な神経回路網の再構築が起こるであろう.それらを明らかにするため,脳梁離断後に起こる大脳皮質内脳梁投射ニューロンの動向を長期的に調べた.同胞の雄Wistarラットを用いて生後8週齢で一側大脳皮質に蛍光色素Fast blueを広範囲に分割注入し対側大脳皮質の脳梁投射錐体細胞を逆行性に標識した後,無作為に二群に分けたラットにそれぞれ脳梁離断とその偽手術を施行した.4,8及び20週後,対側1次運動野にDiamidino yellowを注入した後,薄切標本を作成し落射型蛍光顕微鏡を用いて標識細胞の形態,分布と二重標識の有無について観察した.Fast blueは標識錐体細胞に長期間留まり,周囲のグリア細胞への取り込みによる偽陽性標識は認められなかった.Fast blue標識錐体細胞(脳梁投射錐体細胞)数は,比較的少数であり,かつその分布は局在性を示した.軸索離断による細胞の変性,消失を示す所見は認められず,偽手術群との比較でも,大脳皮質内分布や層構造,各々の錐体細胞の形態に大きな相違はなかった.同側運動野からDiamidino yellowで逆行性に標識された二重標識錐体細胞が確認され,逆行性軸索輸送が存在することから離断された脳梁投射錐体細胞はその生理的機能も維持していると考えられた.
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