研究概要 |
活性型CLの染色性は,前脳虚血後の3日目の神経細胞死が生じた海馬CA1錐体細胞のperikarya,樹状突起及び核で増強し,その後細胞死の進行とともに,染色性が低下し萎縮した細胞が増え,7日後には残存した核にわずかに陽性であった.海馬全体のCLの蛋白量は3日目以後で低下したが,CA1領域では他の領域と比べて差はなかった.プロテインキナーゼC(PKC)については、虚血後1〜2日後のCA1錐体細胞の胞体と樹状突起でγ-PKCの染色性が増強し,3日後以降のCA1錐体細胞において細胞死をきたした細胞では減弱した.CLの拮抗剤の虚血前投与により,CA1錐体細胞の脱落は濃度依存性に抑制され対照群に比べCLのCA1領域の膜分画での比率が低下し,活性型CLの染色性が増強したCA1錐体細胞は虚血3日目以後も少なく変性を示す細胞に限られたが,PKCの局在や蛋白量には変化無かった.PKCの拮抗剤の虚血前投与は、細胞死の発生を抑制しPKCの膜分画での比率は対照群に比べ低下していた.CA1領域で,虚血後1〜2日目にPKCの染色性増強を示す細胞は少なく,3日目以後のPKCの染色性は対照群と差は無かった.拮抗剤投与は,CA1におけるCLの染色性や蛋白量には影響しなかった. 虚血後にはPKCがCLよりも早期に活性化されると考えられ,虚血後2日目までのCA1領域にはPKCのup regulationが生じ,構造変化を伴うCLの活性化は生じていないと考えられた.CLの活性化抑制によりPKCのdown regulationが低下し,PKCを介する細胞死はより促進されるとも考えられるが,細胞骨格蛋白の分解にも抑制され結果的に細胞死が抑制されると推測される.PKCの抑制は,虚血後CLの活性化には影響しないと考えられるが,細胞死を抑制したことから,CLの骨格蛋白分解作用などを間接的に抑えるようなPKCの抑制を介した機序が考えられる.すなわち,虚血後の遅発性神経細胞死の発生には,CLの活性化機構とは独立したPKCの活性化機構を介した機序も関与している可能性がある.
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