研究概要 |
対馬住民では、ATLの原因ウイルスであるHTLV-1の抗体陽性率が、26,1%もあり全国平均に比して著しく高いことが報告されている。このHTLV-1感染と関節炎との関連を知るために対馬住民の抗体陽性者と陰性者を対象にして以下のことを調査することにした。 1、慢性関節リウマチ(RA)と変形性関節炎(OA)の有病率の比較、 2、臨床症状、X線学的所見および予後の比較、 3、血清サイトカイン、白血球接着分子の発現および末梢血リンパ球の自然増殖能の比較、 4、関節液および血清の副甲状腺ホルモン関連蛋白の比較、 対馬に出かけて患者の診療を行うと共に、対馬にある三国公立病院の協力を得て末梢血、関節液また手術例に対しては滑膜の摂取を行った。 抗体陽性者のRA発生率は、2.17%であったのに対し陰性者のそれは1,32%であり陽性者の発生率が有意に高かった。RAの発症年齢は、陽性群が53,0歳、陰性群が49,8歳であった。症状の程度を比較すると、スタインブロッカーのステージI、II、IIIは陽性群が多く、ステージIVは陰性群に多く見られた。末梢血リンパ球の自然増殖能は抗体陽性群に強い増殖能を示した。血清中のサイトカシンは、OA群とRA群との間で1L-1β、TNF-αでは差を認めなかったが1L-2で差を認めた。 以上のことは、HTLV-1感染がRAの発生になんらかの関与をしており、また病態の形成にある役割を演じていることが示唆された。しがし抗HTLV-1抗体陽性者のRAが非陽性者のRAと、どう異なるのか、ひいてはHTLV-1assosiated arthropathyという疾患概念がありうるのか、など多くの問題点が残されている。その解明のためには対馬における患者の病態や予後を明らかにし、さらに分子生物学的な研究の裏ずけが必要と思われる。
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