研究概要 |
(目的)犬馬尾の慢性圧迫モデルを確立することを目的とし、以下の研究を行った。 (対象と方法)1)圧迫材料としてのプラスチックバルーンの作成:バルーンの大きさを決定するために雑種成犬5頭に対し腰部脊柱管および馬尾の解剖学的検討を行った。2)馬尾圧迫力の信頼性の検討:雑種成犬2頭を対象とした。第6腰椎椎弓および仙骨椎弓部分切除後、第7腰椎椎弓直下の硬膜中央部にMillarの圧トランスデューサーを挿入した。第7腰椎椎弓下に解剖学的検討により決定した大きさのバルーンを挿入し、バルーンと連結したATS-1000 compressed air systemにより0,50,100,150,200mmHgの圧力を加え、圧トランスデューサーの測定値と対比した。3)慢性圧迫モデルの作成:雑種成犬30頭を検討の対象とした。第6腰椎椎弓および仙骨椎弓部分切除後、第7腰椎椎弓下に液状のこんにゃくを充填したバルーンを挿入し、10mmHgの圧力を加えた。1週間後(n=10)、3ヵ月後(n=2)に、再度手術を行い、馬尾の電気生理学的および組織学的検討を行った。同様の実験体系で行った急性実験例を対照群(n=18)とした。馬尾の機能は神経伝導速度により評価を行い、組織学的検討はKar novsky固定、Richardson染色法により行った。 (結果)1)第7腰椎高位では、8-12束の神経を含んだ馬尾が存在しており、脊柱管前後径は平均8mm、椎弓根間距離は平均13mmであった。以上の結果よりバルーンの直径は20mmとした。第7腰椎高位でバルーンを完全に膨張させた時の脊柱管前後径は25%に減少した。2)ATS-1000compressed air systemの圧力とMillarの圧トランスデューサーの計測値の誤差は5%以内であった。3)馬尾の神経伝導速度は、対照群が62±11m/s、圧迫1週後では44±22m/s、3カ月後では40±2m/sであり、圧迫群で有意に低下していた(P<0.05)。しかし圧迫1週後と3カ月後では差はなかった。圧迫1週間後の組織学的検討では、馬尾の軸索に何らの変化も認められなかった。しかし、圧迫3カ月後では軽度の軸索の変性を認めた。 (結論)圧迫力10mmHg程度の馬尾慢性圧迫により、人の腰部脊柱管狭窄と類似したモデルが作成できると考えられる。
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