パルス磁場勾配NMR法を用いると生体組織中の水分子の自己拡散係数を非破壊的に測定することが可能である。この方法の1つの大きな特徴は、任意の方向への拡散係数を選択的に測定可能なことである。本研究では、MRI拡散画像による末梢神経障害の新しい評価法を確立するための基礎データを得るために、正常な成熟家兎の坐骨神経内の水分子の拡散係数をパルス磁場勾配NMR法により測定した。さらに、神経の走行方向に対して、平行、垂直方向の拡散係数を比較してその異方性について検討を加えた。 末梢神経には3成分の拡散係数が存在し、早い拡散を示す分画から順に軸索内、細胞外間質、そしてミエリン細胞内の水の拡散係数であると同定した。軸索内の水の神経長軸方向への拡散係数は、これに垂直な方向への拡散係数の約2-3倍であり有意に異方性が存在した。 末梢神経は構造上、最も強い方向性を持つ組織の一つである。今までに、末梢神経では水分子の拡散係数に異方性が存在することが明らかになった。この現象は神経組織の機能上きわめて重要であると考える。現在、ワーラー変性を生じた末梢神経における拡散係数を測定中であり、拡散係数の異方性が消失することが明らかになりつつある。
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