研究概要 |
本地域に多発する原因として、低Ca,低Mgの地域環境が大きな因子であることを明らかにするためカルシウム結晶沈着症(Ca沈着症)の手術摘出標本の6例、対照の6症例において、黄色靱帯、脊椎骨のミネラルを分析した。Ca値は当然の事ながら対照に比べて有意に増加していた。Mg値は靱帯、脊椎骨とも有意に低値であった(p<0.01)。透過型電子顕微鏡の検索を5例に行った。結晶沈着を包むcollagen被膜のなかにgrowing capillaryが散在しており、このcapillaryの内皮細胞にはWeibel-Palade bodiesが豊富であった。この所見がCa結晶沈着が増大するmechanismとして、重要と考えられた。動物実験によるミネラル偏食ラットの腰椎骨梁および大腿骨(皮質骨)のCa,Mg含有量は、低値であり、中枢神経のCa量は高値、Mg料は低Ca.Mg+高Al食群の脊髄で低下を認めた。この結果はCa沈着症での靱帯、および脊椎骨のCa,Mg分析の結果と類似していた。臨床的研究で、上肢には偽通風以外に手関節へのカルシウム結晶沈着と月状骨の特異的変化、肘関節への沈着と肘部管症候群の発症、肩関節周辺への沈着、特に腱板障害による特異的な関節症変化などCa沈着症による多彩な臨床症状が惹起されることが明らかとなった。また、頚椎〜腰椎まで全脊椎にCa結晶沈着による脊髄馬尾障害を認めたのは4症例、また頚椎と腰椎の両部位に病変を認めたのは全体の8割をしめ、麻痺も重症であることから、脊椎カルシウム結晶沈着症とのclinical entityを提唱した。従って自験症例の病態はMcCartyらの指摘するCPPD結晶沈着症と同一病変とは言い難く一種の風土病として認識する必要がある事が示された。すなわち紀伊半島の南部地域では水質中のCa,Mgが低下しておりこれがALSと同様脊椎靱帯Ca沈着症の一因であると推察された。
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