研究概要 |
本研究では麻酔剤の呼吸メカニクスにおよぼす効果のみならず、麻酔・手術手技にともなう呼吸メカニクスの特徴のいくつかについても研究した。研究手技の特徴は課題名の副題にあるように生体工学的・数学的手法を呼吸生理学に応用したことである。それらは肺胞カプセル法による肺胞内圧の直接測定,およびrandom-noise forced oscillation法による呼吸インピーダンスの測定と数理モデルによる呼吸メカニクスの解釈である。肺胞カプセル法の適用は動物実験に限られるが,肺胞内圧を直接測定できるため肺実質の機械的特性を直接分析でき,肺を気道系と肺実質系とに直接分析できる。呼吸インピーダンスの測定は測定するのが気道開口部圧と気流量だけなので臨床にも使用できる。また適当な呼吸系の数理モデルをそれに当てはめることにより,間接ではあるが気道系と肺実質系を分離したり,不均等換気を分析できるという意義がある。 イヌにおいて肺胞カプセル法と呼吸インピーダンス測定を行った研究では 1.ハロセンは正常肺においても気道拡張作用を有するが肺実質への影響は微にとどまるところが,喘息モデルへの作用と異なる。 2.気管支喘息誘発時には肺抵抗・肺エラスタンス,不均等換気のいずれも増加するが,吸入麻酔薬はまず不均等換気を改善し,その後に肺抵抗が低下させ、効果に位相差があることが明らかにされた。 ヒトにおいて呼吸インピーダンス測定と数理モデルあてはめにより呼吸メカニクスを検討した研究では 3.下肢貯血量の増減による静脈環流量変動の肺メカニクスへの影響として気道抵抗は5-10%変化させることがわかった。 4.体位の呼吸メカニクスへの影響としては、肺抵抗は坐位が一番小さく,仰臥位で最大となり,側臥位,腹臥位はその中間に位置する。その変化は肺実質抵抗ではなく気道抵抗の変化による。肺弾性と胸壁メカニクスへの体位の影響は見られなかった。
|