研究概要 |
最近腎機能の低下している患者の手術件数が増加し周術期において残存する腎機能をいかにして保護するかが重大な問題となる。最近の病理学的、免疫学的研究により、in vivoにおける腎炎モデルが開発されつつある現在そのなかでもメサンギウム細胞の障害と腎機能の関係が注目されており、周術期に使用される麻酔薬がどのようにメサンギウム細胞の機能に作用するか注目されている。今回我々はメサンギウム細胞を用いた研究において、静脈性麻酔薬ケタミンの細胞増殖に対する作用を検討し以下の結果を得た。1.ケタミン(10^<-7>〜10^<-4>M)は、[^3H]-thymidineの取り込みと細胞数の増加を濃度依存性に抑制した。2.フォルスコリン(10^<-6>M)は[^3H]-thymidineの取り込みを抑制したが、ケタミン(10^<-4>M)とフォルスコリン(10^<-6>M)で同時に刺激しても相加作用はなかった。3.ケタミンは細胞内のcAMP濃度を濃度依存性に増加させた。以上の結果より、ケタミンはフォルスコリンと同様に細胞内cAMP濃度を上昇させることにより、メサンギウム細胞への[^3H]-thymidineの取り込みと、細胞増殖を抑制することが示唆された。(これらの結果は平成7年日本麻酔学会総会(浜松)において発表している)さらに、われわれは最近臨床に使用され始めたプロポフォールがどのようにメサンギウム細胞の増殖に作用するかも検討しこれらは[^3H]-thymidineの取り込みおよび細胞数の増加には影響しないことも確認して(Minami et al.,Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology,In Press)ケタミンは細胞増殖に対して特異的な作用あることを示唆する結果を確認している。さらに我々は、麻酔薬に限らず、慢性の神経痛に効果のあるカルママゼピンがカテコールアミンを介してメサンギウム細胞の増殖に作用する可能性を現在検討している。現在は生体内の循環作動蛋白であるアドレノメデュリンやTNFに関してもメサンギウム細胞の増殖抑制作用があることを確認し、薬剤としての可能性を検討している(Segawa et al.,Nephron,In press,1996)。 今後はこれらの結果をふまえ、メサンギウム細胞の生理活性物質の産生能にどのように影響するかをELISAを用いて測定し、さらに立体光学顕微鏡を用いて収縮能にどのように影響するかも検討する。また将来的にはラットの腎炎モデルを用いて、in vivoにて上記の麻酔薬のケタミン、プロポフォールを長期に投与し、病理学的な検討を行い、in vitroで得られた結果を確認したいと考えている。
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