研究概要 |
溶接により生じる酸化鉄からなるヒュームをウィスターラットに吸入させ腎に与える影響を検討した。単回吸入実験においては,溶接ヒューム暴露用に作製した木箱中で30分間ヒュームを吸入させたラットの肺胞には鉄の沈着が認められた。肺胞中のマウクロファージも鉄を貧食していた。 続いて20匹の雄ウィスターラットを用いて長期の吸入実験を行った。1日3時間,週3回,3ヶ月間の吸入を行った後,経時的にラットの観察,剖検を行い,組織の変化を検討した。肺中の鉄のほとんどはマクロファージに貧食されていたが,1年後のラットの肺中にも留まっていた。鉄の一部は気管より排泄され続けていたが,縦隔リンパ節中への沈着も認められた。1年後の腎組織において一部の鉄は腎の尿細管上皮に沈着しており,肺からの鉄が腎に到達しうると考えられた。4ヶ月後の腎組織において,一部の腎で核の異形を伴う再生像が認められ,別の腎では嚢胞上の変化が見られた。いずれの組織においても鉄の沈着が認められ,鉄の組織傷害と考えられた。腎細胞癌患者に溶接歴を有する者が多いこと,ニトリロ三酢酸鉄(Fe-NTA)というキレート鉄を腹腔内投与すると高率に腎細胞癌を発生することが報告されているが,溶接ヒュームの吸入も同様の機序により腎に障害をおこし,発癌にいたる可能性があると考えられた。
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