研究概要 |
血管新生は腫瘍組織が一定の大きさを超えて発育増殖していくための不可欠なプロセスである。われわれは尿路癌における血管新生の機構を解明するために、培養系腎細胞癌と膀胱癌、および手術時摘出組織を用いて各種血管新生因子の発現、細胞内局在、また二層培養の系で微小血管内皮細胞の管腔形成能を検討した。さらにヌードマウスで膀胱腫瘍を作製し、血管新生因子の発現変化を検討した。その結果、以下の知見を得た。 (1)b-FGF,VEGF,TGF-αは膀胱癌よりも腎細胞癌に強く発現していた。そしてb-FGF,VEGFの発現は腎細胞癌で著明に増加していた。(2)免疫組織学的検討で腎細胞癌や膀胱癌では、b-FGFは主に核に、VEGFは細胞質に局在していた。(3)RT-PCRによる検討では、b-FGF,VEGF,TGF-α,PDGF-Aの発現率は腎細胞癌(26例)においてそれぞれ96%、77%、69%、50%であった。また膀胱癌(13例)においては、それぞれ77%、62%、62%、0%であった。(4)ヒト大綱由来の微小血管内皮細胞を腎癌細胞と二層培養する血管様構造(管腔形成)がみられた。そして外来性にb-FGFやVEGFを添加すると、濃度依存的に管腔形成の増加が観察された。さらに、この管腔形成はこれらの血管新生因子の特異抗体により阻害された。(5)膀胱癌株KK47をヌードマウスへ移植し腫瘍を作製すると、その発育増殖に伴いTGF-αmRNAの発現が増加する傾向がみられた。(6)PD-ECGFの発現の高い膀胱腫瘍においては第VIII因子を指標とした微小血管密度が高い傾向がみられた。以上の結果より、腎癌や膀胱癌などの尿路癌における腫瘍血管新生には多段階的に複数の血管新生因子が関与していることが示唆された。また、それらの中和抗体を用いることで血管新生を抑制できることが見出された。
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