研究概要 |
免疫学的妊娠維持機構の破綻は、これが初期に起これば流産、中期以降に起これば妊娠中毒症という表現型をとるものと考えることができる。そこで、免疫応答をはじめ様々な生命現象で重要な役割を演じている細胞間の接着という現象に着目し、これを司る接着分子の病態形成に及ぼす影響を検討した。 1.妊娠中毒症と接着分子 日本産科婦人科学会の定義により重症と診断された妊娠中毒症妊婦より末梢血を採取し血清を分離した。ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)を20%患者血清の存在下で培養し、16時間後のICAM-1の発現をフローサイトメトリーで観察した。HUVEC上のICAM-1発現は中毒症重症妊婦、特にIUGRを伴う症例の血清添加により有意に増強することが明かとなった。また、同時に末梢血のNK細胞活性を測定したところ、やはりIUGRを伴う重症例で高値を示した。これらのことにより、妊娠中毒症では血管内皮細胞上の接着分子の発現が亢進し、白血球、リンパ球、特にNK細胞などの細胞障害性を持った細胞との接着の機会が増し、血管内皮細胞障害ひいては妊娠中毒症の病態形成へと進展してゆくと推察された。 2.流産と接着分子 習慣流産モデルマウスCBA/JxDBA/2のmating(20-30%の胎仔吸収率)において妊娠初期に抗ICAM-1抗体および抗LFA-1抗体を投与すると,胎仔吸収率は3-5%に減少した。同時に摘出した脾臓中のNK細胞活性は抗体投与群で低下していた。また、(CBAxDBA)F1脾細胞をstimulatorとしたone way MLR、および胎盤細胞をstimulatorとしたMLPRも低下していた。 以上より、細胞間接着分子の発現や機能異常が免疫学的妊娠維持機構を揺るがし、流産、妊娠中毒症などの妊娠異常の病態形成に関与していることが示唆された。
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