研究概要 |
音声外科は主に喉頭顕微鏡下手術の手法,あるいは他の内視鏡手術によって行われることが多い。そして患者は主として声を職業的に用いる立場の人がほとんどである。従ってもしも手術に失敗すると患者に与える影響は多大なものがある。声帯は小さく且つ微妙な器官である。特に発声中の声帯は高速に振動し,その基本は粘膜波動である。この超高速波動が起きるための重要な条件は粘膜に正常な柔らかさがあることである。しかし手術が行われると多かれ少なかれ,瘢痕が形成される。そのためこの手術はこの瘢痕形成を出来るだけ少なくすることである。まず粘膜波動の起こる部位についての研究が行われ,いわゆる声帯遊離縁を中心として粘膜波動が生じているのであり,声帯下面及び上面については無視はできないが過度の操作は必要でなく,とりあえずは遊離縁の粘膜を十分に保護しつつの手術操作が強く望まれるとした。 以上の観点から声帯の手術操作はその回数が少なければ少ないほど望ましいと主張し,そのための基本手術操作,手術器具の選択についての論文を発表している。 1.喉頭鏡の操作について:的確な角度と固定される深さが適性であることが必要で,一回の鉗子操作で摘出可能な声帯ポリ-プでも手術視野に間違いがあると数回の操作が必要となり,ある場合は泥沼に陥ることもあるとした。 2.器具の選択について:この手術は確かにマイクロサージャリーであるが,だからといって常に小さな器具を選択する必要はないとした。すなわち相手に応じた器具を用いるべきで大きな声帯ポリ-プならば一回操作で摘出すべく大きな鉗子を選ぶべきでありとも述べた。特に絞断器の使用を進めている。この器具は繊細な微細手術にはなじまないように見えるが以後の手術操作の回数を減らすのに絶大な威力を発揮する。しかも無理ない絞断器の操作で遊離縁の粘膜は自然に逃げて保存されることを実際に示した。
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