研究概要 |
正常ではR339抗体が認識するラット眼表面上皮由来ムチン様糖タンパクは,最表層上皮では,涙液側の細胞膜に,その下2〜3層では細胞質内にある。しかし,ビタミンA欠乏ラットで角化した角膜上皮では眼表面上皮由来ムチン様糖タンパクは最表層では低下,あるいは消失していた。電子顕微鏡では角化の程度が軽い周辺部角膜では,ムチン様糖タンパクは最表層上皮では表現されていなかったが,表層下2-3層の細胞では,apical側の細胞膜に表現されていた。一方,角化の強い中央部角膜では,このムチン様糖タンパクは角膜の最表層,その表層下2-3層の細胞でも,全く表現されていなかった。しかし,これらのビタミンA欠乏ラットにビタミンA点眼にて角化が消失すると,最表層細胞も正常と同様の形態となり,ムチン様糖タンパクも表現された。これらより眼表面上皮が産生するムチン様糖タンパクは,角化上皮では産生,表現が低下することが明らかとなった。こうした傾向は,臨床においても同様で上皮が角化する上輪部角結膜炎,眼類天疱瘡ではムチン様糖タンパクは上皮最表層でその表現が低下,消失していた。また,角化していた上輪部結膜上皮も治療後,角化の改善に伴い,ムチン様糖タンパクが表現されるようになった。こうした上皮由来のムチン様糖タンパクを誘導できるかについて,新生ラットでは,生後2週間以内に閉瞼時は角膜上皮上にムチン様糖タンパクは表現されていなかったのに対し,閉瞼している生後12日後のラットに,粘液促進薬を腹腔内投与すると,24時間後には50%の角膜上皮にムチン様糖タンパク表現を誘導された。このムチン様糖タンパク表現の誘導は投与日が11,10日後に投与すると,その効果は低下し,誘導率は33%,20%であった。臨床的にはドライアイ患者では,こうした上皮由来のムチン様糖タンパクの表現が眼表面上皮で低下していることから,これらを誘導しうる薬剤はドライアイの画期的な治療となる可能性が示された。
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